"The Wrestler"


"The Wrestler" 写真クレジット:Fox Searchlight Pictures
ミッキー・ロークは、いつの間にこんな顔になってしまったのだろう。確か、一時プロのボクサーをしていたと思う。きっと試合で顔をボコボコにされたに違いない。しかし、それで良かった。
彼はこの役を演じるためにその顔になったのだ。そんな奇妙な思いにとらわれるほどの当たり役。大スターでもない限り、一生に一度めぐってくるかどうか。もし、そんな役がめぐって来たら役者は死にものぐるいで演じるだろう。その迫力にただただ圧倒される。"Raging Bull" や "Million Dollar Baby" を観た時のように。

80年代に大活躍したプロレスラー、ランディ "ザ・ラム" ロビンソンは、今は落ちぶれてどさ回り。時間があればスーパーで働いているが、トレイラーハウスの家賃すら滞納の身だ。全身の痛みを抑えるため薬漬けの身体で、厳しいリング生活に未練を残して闘い続けていた。そんなある日、ランディが心臓発作で倒れた。医者はもう二度とリングには上がれないと言う…。

このボロボロの男に、父の身勝手を憎み続ける娘(エヴァン・レイチェル・ウッド)と、彼が思いを寄せるストリッパー(マリサ・トメイ)という、二人の女がからんでいく。

格闘技をする男たちの転落の行方は誰も似たり寄ったり。これだけ肉体を酷使し続ければ、その後、人生の選択の余地など何も残らないのではないだろうか。物語はよくある転落もののパターンを踏襲(とうしゅう)しているが、その姿をあえてストレートに描いて成功している。

監督は"π" や "Requiem for a Dream" のダーレン・アロノフスキー。ダークで入り組んだ作品が多いが、この作品ではあつかい難さで知られるロークをとことん追い込んで、単純だが激烈な男の世界をボールドに描き出している。この作品でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。

ロークは、この役のためにプロのレスラーと何ヶ月も特訓。リングから飛び降りたり技を掛けたりと、50歳を越えているとは思えない敏捷な動きで、本物のプロレスラー相手に血まみれの試合場面を何度も見せてくれる。

役者根性といえばトメイも健闘している。身体で稼ぐという意味ではレスラーもストリッパーも同じ。だからこそ彼女はランディの孤独が理解できるのだ。彼女が踊りながらそれに気づく一瞬がすばらしい。

上映時間:1時間45分。サンフランシスコは25日からメトリオン・シアターで上映開始。

"The Wrestler" 英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/thewrestler/