"Frost/Nixon"


"Frost/Nixon" 写真クレジット:Universal Pictures
TVパーソナリティのバーバラ・ウォルターズが、現役だった頃のレーガン大統領に「世間ではあなたのことを馬鹿だという人がいますが?」と質問しているのを見たことがある。
本人に対してスゴい質問だと思ったが、米国のテレビで一番面白いのがこうした報道番組ではないだろうか。この映画の中でもインタビュアーが、ニクソン元大統領のウォーターゲート事件への関与について迫っている。

時は1977年、大統領辞任後沈黙していたニクソンはテレビ・インタビューで初めて事件について語った。この歴史的なインタビューを4000万もの人が固唾(かたず)をのんで見たという。

ニクソンに挑んだのは、なんとイギリスのコメディアン出身のテレビ司会者、デイヴィッド・フロスト。彼は正統派ジャーナリストへの転身をかけてこのインタビューに臨み、ニクソンの方もアメリカ史上初の任期中に辞任した大統領という汚名返上を狙っていた……。そんな設定でこの映画は描かれていく。

フロストは果たしてニクソンから謝罪の言葉を引き出せるのか。辛口ジョークやはぐらかしを交えた二人の問答バトルがスリリングに再現される。

舞台裏も興味深く、ニクソンに凄腕ハリウッド・エージェントがおり、出演料として60万ドルという当時としては途方もない額を要求した経緯や、ニクソンの広報スタッフに若い頃のダイアン・ソイヤー(現TVキャスター)がいたり、というエピソードも描かれる。

脚本は06年に "The Queen" を手掛けたピーター・モーガンで、舞台劇としてすでにロンドンやニューヨークで上演され、好評を博した戯曲を彼自身が脚色した。
主演の二人は、舞台と同じマイケル・シーン(フロスト役)とフランク・ランジェラニクソン役)。二人の丁々発止の名演が見どころだ。ランジェラは猪首や猫背を見事に真似て、老かいなニクソンになり切っている。

シーンの演じたフロストはチャーミングでやや軽いイメージだが、実際のインタビュー(http://www.frostnixon.com//)を見ると落ち着いた様子で鋭い質問を連発している。それを遮(さえぎ)り、へ理屈をこね回すニクソン。真剣勝負の迫力が伝わってくる記録映像と比べると、映画の方は所詮ドラマに過ぎないという印象は否めないが、知的娯楽映画としては上出来だ。

監督はハリウッドの名職人ロン・ハワード。前作の"The Da Vinci Code"はイケナかったがこれは大成功。彼の得意とする実在の人物や歴史的事件を扱い、切れの良い演出が冴えている。今年のゴールデング・ローブ賞の監督賞、作品賞、脚本賞、主演男優賞などにノミネートされた注目作でもある。

上映時間:2時間2分。サンフランシスコはメトレオン・シアターで上映中。25日からはベイエリア各地で上映開始。

"Frost/Nixon"英語公式サイト:http://www.frostnixon.net/website.html