"Hunger"


"Hunger" 写真クレジット:IFC Films
何年かに一度のけぞるほど激烈な映画に出会う。これもその一つ。観やすくはないが絶対忘れられない。見終わると、登場人物たちについてもっと知りたい、という強い欲求にかられた。
イギリスからの独立を目指して19世紀から始まったIRAアイルランド共和国軍)の闘いの中で、比較的近年に起きた実際の出来事を描いている。

舞台となるのは、北アイルランドのメイズ刑務所。投獄されたIRA活動家たちは政治犯としての権利(私服の着用、所内労働の免除等、戦争捕虜と同等待遇)回復を要求し、組織的な抵抗活動を続けていた。囚人服を拒否して毛布だけで身体を包み、糞を壁に塗り付け、尿を廊下に流し出すなどの激しいプロテストだ。

映画は、そんな彼らに容赦のない暴行を加える看守と、抗戦姿勢を崩さない活動家たちの姿から始まる。台詞はほとんどなく、耳に残るのは裸の囚人が殴られる音と呻く声ばかり。説明より先に所内の体験がズーンと内奥に響く壮絶な導入部だ。

1976年から始まった刑務所内の抵抗運動に変化が起きたのが81年。所内のリーダー、ボビー・サンズ(マイケル・ファスベンダー)がハンガー・ストライキを始め、収監中の数10人が彼に続いたのだ。後半はサンズの様子のみに焦点が置かれていく。映像にドラマチックな演出はなく、観る者はサンズが痩せ細り、衰えていく姿に静かに立ち会い続けることになる。

監督は、長編劇映画はこれが初めてというイギリス人のスティーブ・マックィーン。子供の頃に「サンズのハンスト、今日で何日目」という報道が毎日続き、強い衝撃を受けたという。イラクで戦死した兵士たちの写真を切手にした作品(http://www.artfund.org/queenandcountry/index.php)で注目を浴びた気鋭の写真/映像アーティストだ。実際にアイルランドに行き、収監経験のある活動家たちと会って、脚本作りを始めた。

映画作法の常識を覆す手法が特徴的な作品で、とりわけサンズとカトリックの神父(リーアム・カニンガム)の17分にわたる会話をワンカットで見せたシーンは圧巻だった。カット割りを止めることで、神とは、死とは、自由とはについて徹底的に語りあう二人の会話に集中させる仕掛けだ。

最後に、サンズはハンスト66日目で餓死。彼に続いた10人の活動家も餓死した。また看守たちの多くも所外で殺害されている。

上映時間:1時間36分。サンフランシスコはルミエール、イーストベイはでシャタック・シネマで上映中。

"Hunger"英語公式サイト:http://www.hungerthemovie.co.uk/