サンフランシスコ国際映画祭上映作品の中から

世界の家族を見つめる


『歩いても 歩いても』写真クレジット:IFC
夏のある日、長男の15回忌に集まった家族の一日を描いた是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』("Still Walking")。死んだ長男を今だに忘れられない年老いた両親、家族の仲介役を要領よく演じる長女、良く出来た兄と比較される失業中の次男と彼と結婚したばかりの妻。彼女には連れ子がいて、母親はそれが気にいらない。そんな家族の一日をさりげないエピソードを重ねて見せていく。
この中で強い印象を残したのが、母親が作る手料理のシーンだ。 茗荷をきざむシャキシャキとした音、トウモロコシの天ぷらを揚げる音と共に画面から夏の香りが広がる。 手慣れた手つきで得意料理に腕をふるう老齢の母。たぶん、ちゃっかり屋の長女にはこんな料理は作れないだろう。素朴な家庭料理は母と共に消えていく。和やかで明るい家族の団らんに「死」の影が漂うのは、この映画が長男の命日という日に設定されているからだろうか。出演は阿部寛夏川結衣樹木希林原田芳雄など。


"Summer Hour" 写真クレジット:IFC
フランス映画"Summer Hour"(オリヴィエ・アサイヤス監督、邦題『夏時間の庭』)の中でも霧散していく家族の遺産が描かれた。こちらの遺産は高名な画家だった大叔父が遺した膨大な美術品。背景となる季節はここでも夏。大家族が庭にテーブルを出して食事をしているシーンから始まる。
遺産を守り続けた母が亡くなり、 二人の息子と娘はその相続について語り合う。母と大叔父の関係にも謎が多く、その秘密も母の死とともに消えていく。『歩いても…』の母にも家族が知らなかった怖い顔があった。
この二作は、 子供たちが知らなかった顔を持つ母という意味では双子のような作品で、 日本の母は手料理、フランスの母は美術品を遺すという国柄を反映した対比が面白い。出演はジュリエット・ビノシュ、シャルル・ベルリング、ジェレミー・レニエなど。


"Rudo y Cursi"写真クレジット:Sony Pictures Classics
一転、母親のために大きな家を建てるという夢を持つ兄弟が登場するコメディ "Rudo y Cursi" も楽しかった。アメリカ映画でも活躍するメキシコの人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナルディエゴ・ルナが、マヌケな兄弟を演じるメキシコ映画だ。二人の共演は世界的に注目を浴びた "Y tu mamá también" (01年 邦題『天国の口、終りの楽園。』)以来のことで、監督は "Y tu..." の脚本を書いたカルロス・キュアロン。共にサッカーの才能に恵まれて一時の成功を掴むのだが、それぞれの弱味が祟って…、というお話。父親違いでライバル意識ばかりが強い二人だが、互いへの愛情はタップリ。メチャクチャだが、熱い家族の絆を感じさせるところが前二作とは大きな違い。ベルナルとルナの息のあった共演が大きな見所だ。


"Tulpan"写真クレジット:Zeitgeist Films
厳しい環境の中で生きる姉と弟を描いたカザフスタン映画 "Tulpan"(セルゲイ・ドボルツェボイ監督)も忘れ難い。兵役が終わって、草原に住む姉のテントに帰って来た弟は、義理の兄について羊飼いの見習いを始める。しかし、自分の羊を持って自立するには結婚せねばならず、近くに住む若い娘Tulpanに求婚するが断られる。耳が大き過ぎると言うのだ。それでも諦め切れず求婚を続ける主人公の素朴で懸命な姿を温かな笑いに包んで見せていく。弟思いの姉が優しくきれいに描かれ心に残る作品だった。

上映時間とチケットの詳細はサンフランシスコ国際映画祭の公式サイトへ http://www.sffs.org/。上映は5月7日まで続いている。