"Anvil! The Story of Anvil"(邦題『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』)


"Anvil! The Story of Anvil" 写真クレジット:VH1 and Abramorama Films
最近、コメディ映画を観ても笑えない。わざとらしい魂胆が丸見えだからだ。ところが、ドキュメンタリーに笑いアリ。トホホからガハハまで色とりどりの笑いを堪能した。
結成以来30年以上、一度もメジャーでブレイクをしたことがないトロントヘヴィメタル・バンド「アンヴィル」を追ったドキュメンタリー映画。実を言うと、試写のお知らせに添付された写真(下)を見てギョッとした。はっきり言って彼らの見目はよくない。敬遠していたが、見てしまったら、アタリだった。

ヘビメタの王道を大マジメに目指す彼らの姿には愛すべき滑稽感があり、何十年も夢を追い続ける心意気に胸が熱くなった。ヘビメタが苦手の人にもお薦め出来る作品で、4月に一週間だけの上映予定が、各地で予想外の人気を得てロングランが続いている。

映画のメインとして描かれるメンバーは二人。ボーカルとギター担当のスティーヴ "リップス" クドローとドラムスのロブ・ライナー。73年、高校生の頃に出会って以来のバンド仲間で、82年に出したアルバムで注目を浴び「パワーメタルの父」と呼ばれ、メタリカのラーズ・ウルリッヒも彼らを見てメタルにハマったと証言するほどのバンドだった(らしい)。ヘビメタ音痴としては彼らがどれほど偉大なバンドなのか知るよしもないが、ともかくもそんなスタートを切ったにも関わらず、アッという間に前座バンドに転落して現在に至る。

ヘビメタと言えばドラッグとセックスというお決まりのイメージがあるが、彼らの日常はヘビ地味。リップスは給食の配達、ロブは工事現場で働き、時々クラブで演奏の機会があるという状態。だが、それぞれに彼らをサポートしてくれる妻と子供がいて、実は優しいオトーサンという一面も描かれる。13枚目のアルバム作りをしたいと言うと資金を出してくれる親族がいる幸せは、なまじヒットバンドにならなかったこその幸運ではないだろうか。

それでも、1万人の会場に170人ほどの観衆しか来ないショボさ、出演料を貰えない辛さはイタイ。めげずに「最後の最後まで行って、崖から落ちても構わない」と息巻くリップスに「おっと、その時は俺が止めてやるぜ」と合の手を入れるロブの間合いのおかしさ。どこまで本気でどこまでが冗談なのか。マヌケた彼らの語り口に、事実は小説よりも喜(劇)なおかしさが広がる。50歳を過ぎても夢を追い続ける男達を見下すことなく、誰の胸にも宿る夢を追う熱さを思い出させてくれたのもうれしかった。

監督は『ターミナル』(S. スピルバーグ監督)の脚本家サーシャ・ガヴァシ。少年の頃にバンドと出会い、ツアーのバンドボーイをしたこともある元ファンで、バンドに対する愛情と距離を置いた視線がバランス良く、気持ちよく笑える作品に仕上がっている。
上映時間:1時間20分。サンフランシスコはブリッジ・シアターで上映中。

"Anvil! The Story of Anvil"英語公式サイト:http://www.anvilthestoryofanvil.com/
アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』日本語公式サイト:http://www.uplink.co.jp/anvil/