"Treeless Mountain"


"Treeless Mountain" 写真クレジット:Oscilloscope Laboratories
3月のアジア映画祭で観た映画だが、今でも鮮やかに思い出すことができる。韓国を舞台に、母と離れて暮らす6歳の女の子と幼い妹をドキュメンタリー・タッチで描いた瑞々しい劇映画だ。
主人公となる二人の母親は、失踪した夫を探しに出かけるために、大叔母に幼い娘たちを預けた。ところが、アル中の叔母は転校の手続きもしてくれないし、時々食事も事欠くありさま。見知らぬ町で妹の手を引きながら不安な毎日を送る幼い姉だ。そんな彼女の日課は妹を連れてバス停に行くこと。そこは、母と最後に別れた場所だった。

母のくれた大きなブタの貯金箱にコインがいっぱいになったら母は帰ってくると言っていた。姉はバッタを焼いて小学生に売ってコインを集める。お金を稼ぐためではなく貯金箱をいっぱいにしたいだけなのだ。貯金箱をガラガラ振って笑顔をみせる妹は幼過ぎて何も分かっていない。責任感の強い姉の母を慕う思いが静かに画面を満たしていく。

設定だけを聞くと涙を誘う物語だが、姉妹たちへの感傷的な情感は強く抑えられており、それがこの作品にキリリとした輪郭を与えている。演技経験のない女の子の自然な仕草や表情がリアルで、姉の表情が期待から失望へと転じていく変化や、やんちゃな妹が少しづつ元気をなくしていく様子を見事に捉えている。自分で語ることのできない子供たちの思いを、映像に焼き付けた手腕に圧倒された。

監督はコリアン・アメリカンのソウヤング・キム。是枝監督の『誰も知らない』やトリュフォー監督の『大人は判ってくれない』など子供を主人公にした映画から多くを学び、監督自身の韓国での体験を土台に脚本を書いた。当時、自分に何が起きているのかよく判らなかったという監督の「あの体験は何だったのか?」という自分への問い返しの意味もあったのではないだろうか。その思いを独りよがりに追うのではなく、物語として語ることに成功している。これが長編二作目、先が楽しみな女性監督の登場だ。

上映時間:1時間29分。サンフランシスコは15日よりオペラ・プラザで上映中。

"Treeless Mountain"英語公式サイト:http://www.soandbrad.com/