『おくりびと』、『大日本人』


おくりびと』写真クレジット:Regent Releasing
奇しくもまったく違った作風の邦画二作がサンフランシスコで劇場公開される。『おくりびと』(英題 "Departures") と『大日本人』(英題 "Big Man Japan")だ。
前者は今年のアカデミー外国映画賞を受賞し、日本でも大ヒットした作品。後者はカンヌ映画に出品されたものの『映画芸術』誌から07年のワースト1という不名誉な選出を受けた奇作。当然『おくりびと』への期待が高いと思うが、私は感動し損ねた感じだ。

この映画は、納棺師を始めたばかりの青年の家族との和解と成長を描きながら、納棺師という仕事に託された日本的死生観や高い精神性を描こうとした作品だと思う。命の軽視が問われる現代、ここで描かれた死者に敬意と誠実を尽す納棺師の姿は貴く美しい。アカデミー賞で評価された理由もそこにあったのだろう。

ただ、物語があまりにテレビドラマっぽいのだ。登場人物が予想通りの行動をし、思った通りの台詞を言う。その上、観客を飽きさせない意図なのか(脚本はテレビ出身の小山薫堂)、作為的なエピソードが盛り込まれ過ぎて煩く、静謐(せいひつ)で厳粛な納棺師の仕事ぶりとチグハグな印象。最後の涙も嘘くさく薄められ、テーマがかすんでしまった。

心配になるのは、なまじ外国映画賞を取ったために「こういう映画が外国で評価される」と勘違いすること。そんな映画作りが進むと日本映画は質的に衰退してしまう。監督はベテランの滝田洋二郎
上映時間:2時間11分。 エンバカデロ・シアターで上映中。
おくりびと』日本語公式サイト:http://www.okuribito.jp/


大日本人』写真クレジット:Magnolia Pictures, Six Shooter Film Series
一方、NYタイムスやLAタイムスの批評家から絶賛されている『大日本人』。コメディアン松本人志の初監督作品で、松本演じる<大日本人>という巨人が、奇怪なる怪"獣"と闘う。

この映画が日本の観客に受けなかった理由は、『おくりびと』とは反対に非テレビ的だったためかもしれない。"獣"を演じているのが俳優や関西の芸人なのだが、テレビのバラエティなどを見慣れた観客の、彼らが演じるべきおかしさへの期待に応えていない。つまり、テレビ的笑いの共通言語を使っていないのだ。

その代わりに、俳優たちの風貌が松本独自の想像力でデフォルメされ、彼らを知らない観客の笑いのツボにハマった。海原はるか演じる<締ルノ獣>を一目みて、プッと吹き出すのは海原を知らない観客だろう。なかなかの独創性と感心した。

反面、マスコミ業界への風刺表現には際立ったものがなく、ダラダラと冗漫。30分位はカットした方が良かった。松本は、ナルシズムや芸人の道楽的な照れを捨て、解けない謎や人間の怖さを作品に取り込むことが出来れば、同じコメディアン出身の北野武のような作家性のある監督になれる人だと思う。

この二作を観ると、テレビ的であるか否かが映画作りを決める時代になったという失望に近い感慨が残った。
大日本人』上映時間:1時間53分。オペラプラザ・シネマで上映中。
大日本人』日本語公式サイト:http://www.dainipponjin.com/