"Every Little Step"(邦題『ブロードウェイ♪ブロードウェイコーラスラインにかける夢』)


ブロードウェイ♪ブロードウェイ』 写真クレジット:Sony Picture Classic
舞台ミュージカルの楽しさは、伸びやかな歌声が劇場いっぱいに広がり、ダンスシーンの躍動が生で伝わる快感にあるのではないだろうか。人の声と肉体が生み出す命のバイブレーション。
ダンサーたちが舞台で燃焼させる一瞬一瞬の輝きが観客を魅了する。そんな舞台が生まれるまでの汗と痛みと涙のドラマを捉えたのがこのドキュメタリー。

歴代ブロードウェイ・ミュージカルの中で、最長の上演記録を誇る大ヒット作『コーラスライン』(マイケル・ベネット原案、演出、振り付け)。その16年ぶりの再演に向けて、厳しいオーディションを重ねる若いミュージカル俳優たちの姿を追っている。歌えて踊れて、演技も出来てと3拍子揃った才能豊かな若者3000人が、たった19しかない役柄の獲得に向けてしのぎを削る。

当地での公開に先駆け、日本では去年公開され好評を得た作品。ブロードウェイ・ミュージカルに対する日本の関心の高さも伝わってくる。『コーラスライン』はそもそも、ミュージカルのオーディションに集まった若者たちを主人公にしたユニークなミュージカルで、このドキュメタリーはいわば『コーラスライン』のリアリティ版。

一つの役に挑み、8カ月間にわたって数回のオーディションを通過していくダンサーらを中心に、製作側の再演への深い思い入れや、75年の初演当時のダンサーたちの証言や製作秘話なども盛り込んで、名作ミュージカルの魅力を徹底的に描き出している。

この映画を観ていると無名スター予備軍の層の厚さに驚く。しかも、その中でスターの座を掴むのはほんの一握りだけなのだ。

一つの役を最終オーディションまで競り合うベテランダンサーたちの苦しみや、去年のオーディションの時のと同じように台詞を言ってくれと指示され「去年のことなんか思い出せない」と困惑するダンサー、迫真の演技で審査するプロデューサーらを泣かせてしまう天才的な青年俳優の登場など、舞台で演じられるドラマ以上の峻烈なドラマが展開していく。

これがブロードウェイの長い伝統を支える熱いエネルギーの源なのだろう。ミュージカル・ファン必見の一作。監督は舞台と映画業界両方で長いキャリアを持つジェイムズ・D・スターンとアダム・デル・デオ。

上映時間:1時間33分。オペラ・プラザ・シネマで上映中
ブロードウェイ♪ブロードウェイ』日本語公式サイト:http://www.broadway-movie.jp/