"Moon"(邦題『ザ・ムーン』)

"Moon" 写真クレジット:Sony Picture Classics
石油や原子力に代わる新しいエネルギーとして注目される物質にヘリウム3がある。地球にはほとんどないが、月の砂に吸着されており、これを採集して核融合をすると発電が可能となる。放射性廃棄物や二次的に放出される放射線も少なく「理想の核融合燃料」と期待が寄せられているという。この映画は、そのヘリウム3がある企業によって実用化され、地球で使用されるエネルギーの70%を占めるまでになった近未来を背景にしている。
主人公のサム(サム・ロックウェル)は、ヘリウム3の月面採集基地をたった一人で管理する宇宙飛行士。彼に親しく話しかけるコンピューター(声:ケヴィン・スペイシー)を友として、時々地球から送られてくる妻と娘からのビデオを唯一の楽しみに、孤独な基地暮らしを続けてきた。そんな彼の3年の任期も終わりに近づき帰還の日まであと2週間という頃、彼は頭痛や幻影に悩まされ始め、月面での作業中に事故を起して大怪我をする。

気が付くとサムは基地内の医務室のベッドの上。しかも、基地内には誰もいないはずなのに、見知らぬ男がサムを見つめていた。その男の正体は?

独立系の小予算で作られたSF映画なので、特撮とアクションで派手に見せるハリウッドのSF大作群と比べると小品の印象だが、謎を追いながら科学技術の進歩に疑問を投げかける姿勢は立派な正統派SF。近未来社会における効率至上主義の非人間性を衝く社会性/批評性は『エイリアン』や『ブレードランナー』に近く、よく書けたSF短編小説を読むような面白さがあった。

監督は、歌手デヴィッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズで、これが長編初作品。英国の広告業界において斬新な企画で注目を浴びた寵児だ。

米航空宇宙局が2006年12月に発表した月面基地計画の中にヘリウム3の採集への提案があるという。実験では発電に成功、商用化まであと数十年ほどかかるとか。となれば、今や月は人類にとってエネルギー資源の宝庫。米国に続き、ロシアや中国などが月面基地設置を計画しているのもその辺りに理由がありそうだ。

地球の資源を使い尽くした次は月の資源を、ということなのか。静かな月で、巨大な掘削機が砂煙を上げながら月面を削り続けるシーンに、人類の飽くことなき欲望の拡大が見て取れる。のんきに月旅行を夢見ていた時代は遠い昔のことなのだろう。

上映時間:1時間37分。サンフランシスコはセンチュリー・サンフランシスコ・センターで上映中。

"Moon"英語公式サイト:http://www.sonypictures.com/classics/moon/
『ザ・ムーン』日本語公式サイトhttp://themoon.asmik-ace.co.jp/