"The Hurt Locker"(邦題『『ハート・ロッカー』)


ハート・ロッカー』 写真クレジット:Summit Entertainment
女性監督の撮った戦争アクション映画ということで話題になっている。監督の性別はさておいて、炎天下で戦う兵士を体当たりで演じた役者たちの砂にまみれた汗と涙は本物だ。イラク戦争を背景に、IED(即席爆発装置)というあり合わせの爆発物と起爆装置で作られた手製爆弾の解体を専門とする3人編成の爆発物処理班の姿を描いている。
甲冑のような重い爆破防御服とヘルメットを被った兵士が、のそりのそりと爆発物に近づき、手作業で解体する過程に思わず手に汗を握った。灼熱の暑さの中で、一瞬の判断ミスも死へ転じる爆破物処理の実際。その緊張感が見事に描き出されている。

主人公は前任者が爆死した後、処理班に配属になったジェームス二等軍曹(ジェレミー・レナー)。解体経験が豊富な彼は怖い者知らずで、安全基準も無視するジェームスに班内の関係はギクシャク。だが、命がけの銃撃戦を共に生き抜いて、ようやく信頼関係が芽生え始める…。

よくある戦友ものパターンを踏襲している物語のようだが、コトはそう単純には進まない。正義感も勇気もあるジェームスだが、ヒーローと呼ぶにはあまりに無鉄砲。命を賭けた爆発物解体の緊張と忍耐を繰り返しているうちに、危険依存症のようになっていく。

脚本は"In the Valley of Elah"のプロットを書いた調査ジャーナリストのマーク・ボール。日に10−20回は危険物を処理する状況があると言うバグダットでの体験を下に脚本を書いた。反戦、戦意高揚などの政治性を殺ぎ落として、互いの命を預け合う兵士たちの関係と彼らの屈曲する内面に焦点を当てている。

監督はキャスリン・ビグローで、SFやアクション、ホラーなど多様なジャンルを手がけて来たベテランだ。刑事と犯罪者の異色な友情を描いた"Point Break"やロシア軍人を描いた"K-19: The Widowmaker"など男達を主人公にした映画に秀作が多い。

この作品ではカメラを多用して、一瞬に命を賭ける兵士たちの視線と彼らを見つめる視線を錯綜させて、カオス的戦場の臨場感を出すことに成功している。たぶん、この作品はビグローの最高作の一つになるだろう。去年のヴェネチア国際映画祭でも高い評判を得た。

真夏のヨルダンでの撮影は困難を極め、屈強な若い俳優や撮影監督らが暑さと疲労でバテバテになるのを監督として引っぱり続けたという。その力技が画面から溢れ出ている。

上映時間:2時間11分。サンフランシスコは、エンバカデロ・シネマとサンダンス・カブキシアターで上映中。

ハート・ロッカー』英語公式サイト:http://thehurtlocker-movie.com/