"Sin Nombre" (2009) など9作品

"Sin Nombre"(邦題『闇の列車、光の旅』)

『闇の列車、光の旅』 写真クレジット:Focus Features
出演:パウリナ・ガイタン、エドガール・フローレス
列車の屋根に乗ってアメリカへ向かうホンジュラスの少女が、メキシコの元ギャングに命を救われた。少年に運命を預けることを決めた少女と、少年の命を狙う凶悪なギャングの執拗な追跡。失うものは命しかない若い二人の道行きに古典的な悲劇性が立ち上がる鮮烈な作品。2009年のサンダンス映画祭で監督賞を得たケイリー・フクナガの長編デビュー作。



"The Grifters"(1990年、邦題『グリフターズ、詐欺師たち』)

『グリフターズ、詐欺師たち』写真クレジット: Miramax
出演:ジョン・キューザックアンジェリカ・ヒューストンアネット・ベニング
母と息子、彼の恋人が織りなす世にも稀なる三角関係。しかも、3人共に詐欺師という犯罪スリラーだ。小物詐欺師の息子をはさんで、筋金入りの母と大きなヤマを狙う恋人が騙し合い、驚くべき結末へ。主演3人の競演が見もので、とりわけ母役のヒューストンが絶品。こんな怖い母親は見たことがない。監督は『クイーン』のスティーヴン・フリアーズなので人間ドラマとしても見応え充分だ。



祇園の姉妹』(1936年、英語題『Sisters of the Gion』)

祇園の姉妹』写真クレジット:The Criterion Collection
山田五十鈴って本当に名女優なのだ、と改めて感服した山田若干18才(昭和11年!)の主演作品。男に騙されてばかりいる姉の反動で、次々と男を騙していく祇園の若い芸妓の物語だ。京ことばを流れるように捲し立てる台詞回しが天才的。「女を玩具にする男には絶対負けない」と意地を張る姿に戦前の女の悲憤が滲む。名匠、溝口健二監督が脚本も書いた初期の傑作の一つだ。



"Let the Right One In"(2008年)

"Let the Right One In" 写真クレジット: Magnolia Pictures
雪が降り積もるスウェーデンを舞台にした異色の吸血鬼もの。ホラーは大の苦手だが、これは楽しめた。イジメられっ子の12才の少年が、隣りに越してきた少女と親しくなる。ところが彼女は吸血鬼、200年もこの世を彷徨っていた…。孤独な少年と少女が心を通わせていくうちに死体がドサドサ、というダークなユーモアとロマンチシズムが魅力。ベストセラー小説の映画化で、世界各地の映画祭で話題を集めた。監督は トーマス・アルフレッドソン



ヴァイブレータ』(2003年)

ヴァイブレータ』写真クレジット:ハピネットピクチャーズ
出演:寺島しのぶ大森南朋
日本の今を生きる若い女の「壊れ」をビビッドに描いた作品。食べ吐きとアルコール浸りの雑誌ライターの女が、コンビニで出会った男のトラックに乗り込み、目的のない旅に出た。男の肌の温もりと柔らかさに硬く凍った女の心がすこしだけ緩む様子を、寺島が自然に演じて出色の出来映え。気負いのない大森も素敵だ。独特の文体で話題になった赤坂真理の原作を廣木隆一監督が映画化した。



"The Battle of Algiers"(1966年、邦題『アルジェの戦い』)

『アルジェの戦い』写真クレジット:The Criterion Collection
62年にフランスから独立したアルジェリア独立戦争をその始りから追った映画史に残る傑作。独立直後の65年ごろから首都アルジェで素人の俳優を使い、ドキュメンタリータッチで描かれた希少な劇映画で、画面から民衆の熱気と迫力が吹き上がる。イタリア人のジロ・ポンテコルヴォが監督。04年版DVDの特典映像ではO. ストーンやS. ソーダバーク監督らが本作から受けた影響を熱く語って興味深い。



"Elevator to the Gallows"(1958年、邦題『死刑台のエレベーター』)

死刑台のエレベーター』写真クレジット:The Criterion Collection
出演:ジャンヌ・モローモーリス・ロネ
社長の妻と不倫関係にある若い部下が、妻と結託して社長殺しを計画。ところが、さ細な偶然によって事件は思わぬ方向へ。フランスのヌーヴェルヴァーグを代表するルイ・マル監督の25才のデビュー作。モローの気だるいマダムぶりにパリの退廃が漂い、マイルス・デイヴィスの即興演奏がサスペンスを見事に盛り上げている。



『最好的時光』(2005年、邦題『百年恋歌』、英題名『Three Times』)

『百年恋歌』写真クレジット: IFC Films
出演:スー・チーチャン・チェン
台湾の名匠ホウ・シャオシェン監督が、同じ俳優を使って3つの時代の恋愛を描いたうっとりするほど美しい作品。1911年は遊郭を舞台に外交官と芸妓、1966年はビリヤード場で働く女と兵役に向かう青年、2005年は歌手とカメラマン。百年前の穏やかで成熟した関係から甘酸っぱい初恋、そして激しく引かれ合う恋愛への変遷を通して、ロマンスが消えかけた現代が見えてくる。



"Revanche"(2008年)

"Revanche" 写真クレジット:The Criterion Collection
出演:ヨハン・クリシュ、イリーナ・ポタペンコ
ある男の人生のつまずきと復讐を描いた極上の犯罪心理映画。恨む相手の近くに住んで復讐への決意を高めていく男が、力一杯薪を割る。その薪が山となる場面に潜む鬱積する男の怒り。湖に広がる波紋に託された底知れぬ男の苦悶。音楽や台詞を切り落とし、主人公に去来する感情を映像で見せるオーソドックスな作風に、映画の本来の持つ醍醐味を満喫。監督はウィーンの出身のゲッツ・シュピールマン。