"The Runaways"(『ザ・ランナウェイズ(原題)』)


『ザ・ランナウェイズ』写真クレジット:Apparition
70年代後半に日本で人気を博した米国のロックバンド、ランナウェイズ。当時を知っている人ならボーカルのシェリー・カーリーのセクシーな下着姿をまず思い出すのではないか。それ以外のことを憶えている人はかなりのファンだろう。
音楽性より見た目が先行していたが、あのスタイルは彼女たちが選んだものではなく、音楽プロデューサーの演出だった。しかも、その戦略が本国アメリカではなく日本でだけ大当たりをした。

15歳の少女が下着姿でロックを歌う姿がウケたのは、中学生だった山口百恵がちょっとアブナい歌詞を歌って人気を集めたのと同じ頃。少女の性はあの頃からメディアで本格的に商売になり始めたような気がする。

さて、本作はそのランナウェイズの盛衰記。物語の中心にギタリストのジョーン・ジェットとヴォーカルのカーリーを据えて、二人の出会いと厳しいロッカー修行時代から一時の栄華をへて霧散していった経緯を追っている。

見どころは天才子役と呼ばれたダコタ・ファニングと『トワイライト』シリーズで人気を集めるクリステン・スチュワートの競演だ。ファニングはやや愛らし過ぎるのだが、バンドの大ヒット曲 "Cherry Bomb" を下着姿で堂々と歌い、スチュワートもギターを弾いてなかなか魅力的だ。

だが物語としては、不本意な売られ方をし、酒とドラック、セックスに溺れて…という型通りのバンド転落ものの域を出ず、二人の熱演が宙に浮いてしまった。とりわけ、日本ツアーでのエピソードの演出が稚拙で見苦しく、日本髪で白塗りのウエイトレスが登場した時は、あまりの時代錯誤にあ然とした。

脚本/監督はこれが初作品のフローリア・シジスモンディ。彼女はミュージシャンのプロモビデオを多く作って来た異色の映像作家だが、少女たちの体験を表面からなぞるだけの演出には疑問が残った。

原作はカーリーが書いた回想記なので彼女の話が中心になり、それがかえって本作を退屈にしている面もあった。B. バルドーに似ているというだけで、歌を歌ったこともなかった15歳の少女がスターになり、バンド仲間の反発を喰らってドラッグにハマり…という彼女の回想記自体にロックへの情熱や内省の奥行きが欠けていたのでないか。

見終わるとスチュワートのジェットをもっと見たいという欲求が起こった。彼女の欠点と言われる猫背で拗ねたような風貌が実にロッカーらしく、これは彼女の当たり役だと思う。

誰もが一度はロックンローラーの夢を見る。だからこそ、スージー・クアトロにあこがれ、ロックが好きで好きで、一日中ギターを弾いていたジェットに心引かれるのだ。本作の最後で流れるジェットのソロ・ヒット作 "I Love Rock 'N Roll" に熱くならないロックファンはいないだろう。

上映時間:1時間42分。サンフランシスコはAMC Van Ness 14などのシネコンで上映中。
『ザ・ランナウェイズ』英語公式サイト:http://runawaysmovie.com/