"Please Give"(邦題『善意の向こう側』)


"Please Give" 写真クレジット:Sony Pictures Classics
人より多く金を持つ人間の罪悪感をめぐるお話である。大富豪という訳ではないが、マンハッタンに部屋を持ち、趣味の良い家具に囲まれて快適に暮らすニューヨーカーたちが登場する。一見ウッディ・アレンのコメディ風な知的で皮肉な笑いを含んでいるが、着地点はまったく違う。楽しいコメディを期待すると失望するだろう。
主人公は、アンティック家具の店を夫とともに経営するケイト(キャサリン・キーナー)。この夫婦はNYのアパートで亡くなった老人らが遺す古い家具をその家族から安く買って、高値をつけて売っている。生意気盛りのティーンの娘はそんな両親を「ハゲタカ」と呼び、ケイトもそんな生業に罪悪感を持っている。

その帳尻を合わせるかのようにホームレスに金を与えるケイトだが、娘がブランド物の高級ジーンズを欲しいとねだると「高過ぎる」と拒否してしまう。またケイトは、隣に住む90歳を過ぎたひとり暮らしの老女のために買い物の手伝いをするが、実は老女の死後にそのユニットを買い取って住まいを広くする予定なのだ。

親切なのか酷薄なのか、気前が良いのかケチなのか、矛盾だらけの主人公たちの金と罪悪感をめぐる日常が、小気味よい台詞にのって次々と活写されていく。

物語は後半、口の悪い老女とその二人の孫娘、地味で祖母思いのレベッカレベッカ・ホール)と皮肉屋で祖母の死を平気で口にするメアリー(アマンダ・ピート)がケイト一家に絡んで愛憎ドラマ風な展開をしていく。

が、このドラマも大して盛り上がらない。登場人物の誰を見てもパッションがないのだから当然だ。ケイトは夫と激情をぶつけ合うこともなく、しぼんだ風船のようにヨロヨロとした模索を繰り返し、なんとなくの納得にたどり着く。

これだけ?と呆気にとられるエンディング。その失望と乾いたリアリティが本作の絶妙な味わいだ。家族の物語として観ると嫌な気分になるだけだが、視界を広げると「資本主義者だけど善き人でありたい」という、いかにもアメリカ人的な悩みと矛盾を衝く面白い作品だった。

脚本/監督はニコール・ホロフセナー。『Lovely & Amazing』、『セックス・アンド・マネー』など女性を主人公とした独特な作品を作り続けている。ニューヨークの(たぶん裕福な)ユダヤ系家庭に育った経験が作品作りの土台になっているようだ。本作の舞台となるケイトの部屋は監督の友人のもので、隣部屋の老女が亡くなって改装……という経緯も同じだったという。

上映時間:1時間30分。サンフラシスコはルミエール・シアターで上映中。

"Please Give"英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/pleasegive/