"Micmacs"(邦題『ミックマック』)


『ミックマック』 写真クレジット:Sony Pictures Classics
アメリ』で世界的にブレイクしたジャン=ピエール・ジュネ監督の最新作。彼の作品を観ていると、行ったことはないがパリの骨董品屋にいるようなウキウキとした気分になる。
古い小物やガラクタがところ狭しと並ぶ小さな世界。一つ一つ手に取ってじっくり見たくなるが、映画の方は画面が飛ぶように進んでいく。追いかけるのがタイヘンだが、それがまた楽しいのだ。

さて、本作の舞台もパリだ。主人公は発砲事件の流れ弾に当たり、その銃弾がまだ頭に残っているバジル(ダニー・ブーン)。見た目とは裏腹にナイーブでロマンチストな青年で、退院後は仕事を無くしてホームレス状態。そんな頃、廃品回収をする男とその仲間が共同生活をする洞窟に招かれる。

彼らの仕事を手伝いながら、偶然彼の頭に残る銃弾を作った会社を発見。しかも、その真向かいには父の死の原因となった地雷製造会社もあってガーンとなる。あまりに立派なビルを見上げて、眠っていた怒りと悲しみが目覚め、彼はこの二企業への報復を思い立つ。洞窟の仲間たちの知恵と助けを借りて、彼らの復讐作戦が始まった。

人間大砲や痩せっぽちの力持ち発明家、瞬時測定の天才少女、身体がゴム状態の軟体女など、ジュネ監督らしい異風な力をもった人々が登場。自慢の得意技や特殊技能、奇想に満ちたアイディアを使った作戦がテンポよく描かれる。

まるでオモチャ箱をヒックリ返したような賑やかさ、と思っていたら監督は『トイ・ストーリー』や『白雪姫と7人の小人』からヒントを得た作品だという。主人公のバジルを白雪姫に見立てたユーモアが卓抜だ。

オレンジ系の暖色を基調にした画面や短いカット割りと目玉のアップ、ノスタルジックな音楽などジュネ監督のスタイルは健在。脇をドミニク・ピノン、ヨランド・モローアンドレ・デュソリエなどジュネ作品に欠かせない個性派俳優たちが固めて、ファンには堪らない魅力だろう。超個性的だが絶対的に信頼できる仲間がいる安心感に支えられた幸せな映画と言える。

本作では、初期の『デリカテッセン』で顕著だったグロテスクなテイストやダークなユーモアが影をひそめ、『アメリ』的善意と快活さが際立っている。『天井桟敷の人々』のジャック・プレベールの書いた詩的な台詞を何度も思い返しながら脚本を書いたという監督。フランス映画の伝統と誇りが本作にも生きていた。

上映時間:1時間44分。サンフラシスコはエンバカデロ・シアターで上映中。日本では9月上映開始予定。
『ミックマック』日本語公式サイト:http://www.micmacs.jp/