"Cairo Time"


"Cairo Time" 写真クレジット:IFC Films
カイロのエキゾチックな風景を背景に、ナイル川のようにゆったりと流れる男女の抑制された情感を美しく見せる映画だ。これぞロマンチック・ムーヴィーの女王様かもしれない。
国連の高官である夫マーク(トム・マカムス)とカイロで落ち合う約束だった妻ジュリエット(パトリシア・クラークソン)は、空港で夫の友人タレク(アレクサンダー・シディング)の出迎えを受ける。彼は夫の伝言「ガザで足止めされているので帰るまで待っていて欲しい」を伝え、ジュリエットをホテルまで送る。

タレクは長身のハンサム、元警備官だが物腰が柔らかく実に紳士的な男だ。自分が帰るまで妻をよろしくと頼まれたタレクは、ホテルで退屈をかこうジュリエットを誘ってカイロの街を案内。さまざまな表情を見せる美しいカイロの街を歩きながら、二人は親しさを増して行く。

旅先の恋に憧れるロマンチストなら誰もが酔える夢の世界ではないだろうか。主人公は美貌の雑誌編集者、子供も成長してさあこれから夫と二人だけの時間を過ごそうとした矢先、紛争が二人を引き離す。一人異国の地に取り残された主人公。それもつかの間、甘いマスクの異国の男が現れ、女を優しくエスコート。次第に二人は心を寄せ合い、女は忘れかけていた熱い情感を思い出す…。出来過ぎたお膳立て、調子よくコトが進むところが夢物語たるゆえんだ。

炎天下でも涼し気なクラークソンのエレガントな美しさと、アラブのプリンスを彷彿とさせるシディング(『シリアナ『24』)の魅惑的な眼差し。気品ある二人の魅力もこの夢物語を引き立てる。

ガザ危機を男女の出会いに使うなんて節操が無さ過ぎ、という野暮なツッコミを飲み込んで、大人の恋の行方に目を奪われる滑らかな演出だ。ドラマチックな演出や音楽を抑え、主人公の異国での出会いを彼女の感情の揺れにそって見せていく女性監督らしい作品と言える。

脚本/監督はシリア系カナダ人のルバ・ナッダ。イスラムと非イスラムの間に芽生える恋愛映画などを作ってきた人で、37歳とまだ若いが、17作品を撮っている実力派だ。本作ではアラブ男性の高い知性や優雅さなどが伝わり、監督の「アラブの男も素敵なのよ」という声が聞こえて来そう。確かにタレクは素敵だったが、あまりに控えめだし、ジュリエットをお姫様扱いし過ぎじゃないの、なんて思うのはロマンスに酔い切れない無粋者の感想かもしれない。

上映時間:1時間28分。8月6日から劇場公開予定またオンデマンドで視聴可能予定。
"Cairo Time"英語公式サイト:http://www.cairotime.ca/