"Animal Kingdom"


"Animal Kingdom" 写真クレジット:Sony Picture Classics
オーストラリア映画だが、もちろんカンガルーやコアラの映画ではない。ケダモノの群れ、とでも訳すのがピッタリの犯罪映画の秀作で、今年のサンダンス映画祭でワールドシネマ・ドラマ部門グランプリを受賞している。
オーストラリアからは今年前半に『Square』というダークなサスペンスものが公開されたが、これもコーヘン映画っぽい極上の味わいのある作品だった。本作も同様、他に類をみない面白さで、今オーストラリア映画に注目という感じだ。

母親が麻薬中毒で急死した17歳のジェイ (ジェームズ・フレッチェヴィル)は、会ったことのない祖母(ジャッキー・ウィーヴァー)の家に預けられる。ところがこの家は稀代の犯罪一家だった。母親を中心に三兄弟が同じ家で暮らしているのだが、この3人ともが犯罪者。強盗をして逃走している長男、ドラッグで大もうけしている次男、まだティーンの面影が残る三男も「家業」の手助け、というありさま。始めは何が起きているか分からないジェイだが、銃で人を脅かす快感を覚えていく。

そんな頃、長男の相棒が警官によって射殺され、逃げていた長男が舞い戻ってくる。三兄弟は警察への復讐を誓い、夜の街へ。同行したジェイは彼らの犯行を目撃してしまう。警察の大捜査が始まり、逃走と銃撃の修羅場を経て兄弟は逮捕される。司法側はジェイを証人にしようと躍起になるのだが…、というところで話の半分だ。

後半は保護されたジェイを説得する誠実な刑事(ガイ・ピアース)と、息子らを無罪にさせるために影で動く祖母との緊迫した対決へと転じていく。この祖母の人物像が見事だ。甘い声で "Hi, Honey" と言いながら、その裏で犯罪一家の女ドンという凄みを発揮、怖いことこの上ない。

また、大きな図体をしたジェイの現実感の無さも異様。母の死体が運ばれているのに、ヌボーッとテレビを見続けている。鈍いのか、ヌケけているのか、表情からは何も読み取れない。一方、無抵抗の犯罪者を平気で射殺する腐敗した警察の無法ぶりも描かれ、題名になるほどと唸らされる仕掛け。結末は最後まで見当がつかない。

脚本/監督は本作がデビューのデビッド・マイコッド。善も悪もない一群の人間像をリアルに描き出した脚本と演出の手腕は第一級、第一作目とは思えない大きな才能だ。日本のやくざ映画やフランスのフィルム・ノアール、またアメリカのギャング映画のどれとも作風を異にした一作。オーストラリアらしい野性味のある新しい犯罪映画が誕生した感がある。
上映時間:2時間2分。サンフランシスコはサンダンス・カブキ・シネマなどシネコンで上映中。
"Animal Kingdom" 英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/animalkingdom/