"Buried"(邦題『リミット』)


『リミット』写真クレジット:Lionsgate
登場人物はたった一人、場面のほぼ全てが棺桶の中の暗いショットのみ、こんな状況が映画になるのかという疑問を吹き飛ばす第一級のスリラーだ。
戦時下のイラクが舞台。ポール・コンロイ(ライアン・レイノルズ)は民間企業で働くトラック運転手だ。ある時、目が覚めると真っ暗闇の中にいた。しかも身体がほとんど動かせない。どうやら棺桶の中にいるらしいと気付いた彼はパニックに落ち入る。

すると突然携帯電話が鳴り、外国訛りの男の声で身代金5百万ドルが要求される。ポールは「自分はただの民間人でそんな金は用意できない」と叫ぶが、男は携帯を使って金を準備させろと命令する。そのために棺桶内に携帯電話と懐中電灯があったのだ。ぼう然となるポールだが気を取り直し、携帯を利用して脱出を図ろうとする。

こんな時人が思いつくことに大差はない。まずは家に電話を入れる。が、留守電だ。次は狂ったように411、911、軍から州政府、会社へと助けの電話をかけまくる。しかし、パニクって呂律が回らず、内線電話のたらい回しをされる始末。

自分が置かれた絶対絶命状況を外界に伝えられない苛立ちと憤りがポールを襲う。もう一度家に電話。留守電に録音されている愛らしい息子の声に嗚咽が洩れる。誰か、誰でも良いから助けてくれ!という彼の叫びは外の世界に届くのか。

のんびり対応する電話オペレーター、ポールに延々と質問を続ける会社の人間など、携帯電話という文明の利器を通して、男が生きる米国社会のエッセンスが濃厚に棺桶の中を満たしていく。薄くなっていく空気、刻々と減っていく携帯電話の電源が危機感を盛り上げ最後まで画面に釘付けにされた。

一部ではホラー映画のような紹介をされているがホラー感はなく、真っ暗な画面が続く秀逸な導入部から一気に主人公の自由へのあがきが描かれる社会性のある人間ドラマである。

棺桶内の90分にこれだけのドラマを盛り込み、退屈させない優れた脚本の力に感服した。脚本は米国のクリス・スパーリング、監督はスペインのロドリゴ・コルテス、共に30代の気鋭の映画人だ。軽妙な役が多かったレイノルズも、本作では動きのない一人芝居で危機感を持続させ、演技派への脱皮を図っている。

それにしても、本作を見終わり外に出た時の解放感はひとしお。閉所恐怖症や呼吸器に問題のある人にはちょっと苦しい映画で、お薦めできないかもしれない。
上映時間:1時間34分。サンフランシスコはCentury San Francisco Centre 9 and XDで上映中。
『リミット』日本語公式サイト:http://limit.gaga.ne.jp/