"Potiche"(邦題『しあわせの雨傘』)


しあわせの雨傘』写真クレジット:Music BoX Films

カトリーヌ・ドヌーヴを主人公に据えた明るいコメディ。80年代にパリでヒットした風俗劇を、異才フランソワ・オゾンが大幅に書き直し、監督している。フワフワとした夢のような物語に加えてセットや衣装がカラフルでキレイ、というまるでフランス菓子のマカロンみたいな映画だ。マカロンは苦手なのだが、ちょっと風変わりなフレーバーがオゾン監督らしくて、本作はおいしく楽しめた。
時は1977年。女は男の意見に同意だけしていれば良いという無神経な夫ロベール(ファブリス・ルキーニ)と30年連れ添っている妻スザンヌ(ドヌーヴ)。優雅なマダム暮らしではあるが、毎日がどこか退屈だ。

ロベールの経営する雨傘工場では、利益優先の強権的な経営に対するストライキが絶えなかった。ところがロベールが心臓発作を起して、スザンヌが工場経営を代行することに。

彼女は従業員思いだった創業者である父親の経営方針を復活させ、ストは解除。息子や娘も経営に参加させ業績をあげていく。ところが、夫が帰ってきてスザンヌに社長の椅子を返せと迫るのだった。

邦題はドヌーヴの初期主演作『シェルブールの雨傘』からヒントを得たものだが、原題のPoticheの意はトロフィーワイフ。ただのお飾りでしかなかった女性が、ある偶然から自分の可能性に目覚めて、目標をつかみ取っていくという夢物語を、ウイットに富んだ会話とヒネリを利かせたプロットで軽快にみせてくれる。

彼女を助ける共産主義者の純情な市長(ジェラール・ドパルデュー)との関係や、二人がディスコで踊るシーンに映画ファンならニタリとしてしまうだろう。おっとりとしているがしなやかな強さを持つ女性を、魅力たっぷりに演じた大輪の花ドヌーヴにも喝采を送りたい。エンディングはなんと歌まで歌ってくれる。

オゾン監督は、07年のフランス大統領選挙でサルコジに破れた社会党女性候補者セゴレーヌ・ロワイヤルの奮闘をみて本作を思いついたと言っている。女が力を持つこと、それを阻もうとする力がまだまだあることを改めて思い起させてくれるという意味では単なるフェミニズム懐古の映画でないことは確かだ。

それにしても、女が経営すると業績が上がるというプロットに、ジェーン・フォンダらが主演した80年の『9時から5時まで』を思い出し、あーあの頃は女の未来図もシンプルだった、と思わずため息。今やサラ・ペイリンが大統領になったらどうする?を心配せねばならぬ時代なのだ。

上映時間:1時間43分。サンフランシスコはクレイ・シアターで上映中。
しあわせの雨傘』日本語公式サイト:http://amagasa.gaga.ne.jp/