"In A Better World"(原題『イン・ア・ベター・ワールド』)

ある愛の風景』や『アフター・ウェディング 』などを世界に送り出してきたドグマ95出身の映画監督スサンネ・ビアの最新作。本年度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品だ。

『イン・ア・ベター・ワールド』 写真クレジット:Sony Pictures Classics
夫婦や家族に起きる悲劇的な事件を通して人の生き難さやしぶとさをドラマチックに描くことを得意としてきたビア監督。本作では暴力を内包する現代社会へと視点を広げ、その中で生きる親子と夫婦の関係をじっくりと追い、希望を予感させる力強い作品となっている。

アフリカの難民キャンプで働く医師アントン(ミカエル・ペルスブラント)は、のどかなデンマークの町に家族を残していた。医師である妻(トリー ヌ・ディルホム)とは別居中で、学校でいじめの対象になっている10歳の息子エリアスはそんな母を嫌っていた。

転校生クリスチャンは母をガンで亡くしたばかり。孤独なエリアスと親しくなり、いじめっ子をナイフで脅して問題となる。そんな頃アントンが帰国し、息子とクリスチャンを連れて遊びに行った先で、見知らぬ男から意味もなく殴られる。それを目撃したクリスチャンらは衝撃を受け、男への復讐を計画していく。

スエーデン語の題名は「復讐」。小学生に芽生えた復讐の意思が少しずつ具体化していくサスペンスが、後半の物語を牽引していく。それと平行してアントンが働く難民キャンプを囲む凄惨な暴力が描かれ、彼は医師として人間として矛盾するモラルを抱え込んでいく。さらに、クリスチャンの父(ウルリク・トムセン)が妻の死の衝撃を隠せずにいることや、アントンを許せない妻の姿など、それぞれに苦悩する二組の親も簡潔に描写されていく。

ビア作品は平凡な家族を中心に据えながら時として話を無理に作り過ぎるきらいがあるのだが、本作ではエピソードが自然で観る者に自問を促していく。脚本は、彼女の他作品も手がけたアナス・トマス・イェンセン。

アントンは息子たちを連れて彼を殴った男に会いに行きもう一度殴られてしまう。だが抵抗をせず、子供たちに暴力と復讐の無意味さを教えようとする。暴力と復讐の連鎖、その真っただ中に置かれた子に、親は何を教えるのか。どのように子を支えるのか。親はそれぞれの人生にかまけるのではなく、試練を生き抜くことを通して子を守り支えていけるのではないか。そんな貴重な問いが観終わった後も心に響いてきた。

上映時間:1時間53分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターで上映中。
『イン・ア・ベター・ワールド』 英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/inabetterworld/