"Meek's Cutoff"


"Meek's Cutoff" 写真クレジット:Oscilloscope Laboratories
1840年から60年にかけて多くの開拓民たちが東海岸からオレゴンに移住し始めた。ホロ馬車を連ねた彼らの辿った道は「オレゴントレイル」と呼ばれる3,500 kmの道のり。砂漠や山岳地帯を乗り越えて6ヶ月近くも掛けて旅する長く厳しい道程で、多くの人々がその過程で亡くなったという。本作はその開拓民らの過酷な旅を題材としている。
題名は「ミークの取った近道」という意味で、当時実在したトレイルのガイド役スティーブン・ミークに率いられた3家族の物語だ。メインとなる台詞は極端に少なく、灼熱の砂漠を黙々と歩く様子や、真っ暗闇の中でたき火の明かりだけで慎ましい食事を取る素朴な開拓民を、あたかも自分が見て来たような気分にさせてくれる不思議な力を持った映画作品だ。

時は1845年、"Lost" という文字を枯れ木に彫りつける若者(ポール・ダノ)の姿から物語は始まる。何日も砂漠を彷徨っているらしい一行だが、ミーク(ブルース・グリーンウッド)は陽気に武勇談を語り、3人の夫たちは自信たっぷりな彼が勧める近道に従っている。だが、リーダー的役割のソロモン(ウィル・パットン)の妻エミリー(ミシェル・ウィリアムズ)は、ミークの判断に強い不審感を持っていた。

水が尽き始め絶望感が一行を包み始めた頃、男たちは先住民の男を捕まえる。ミークは彼を殺そうとするが、エミリーの夫は彼を生かして道案内をさせようと提案する。男が何を話しているか皆目見当もつかない一行だが、エミリーはなんとか男の気持ちを掴んで水のありかまで案内させようとする。

言葉少ないエミリーの確信的勘が、一行を心理的にリードしていくという展開が面白い。危機的状況で女の底力を見せつけるウィリアムズの無骨で野太い演技が印象的だ。監督はウィリアムズが主演した前作『ウエンディ・アンド・ルーシー』のケリー・レイチャード。彼女にとって本作がオレゴン3部作の最後に当たる作品で、低予算の小品が多い作品中で「大作」の部類に入るだろう。しかし水増し感はなく、娯楽性を削ぎ取った単調さや唐突な終わり方などの演出がさらに研ぎすまされている。

製作ノートを読むと、今イラクアフガニスタンにいる米兵たちの現状を開拓民の姿に重ねたとある。開拓民にとって西部は異境の地、先住民の土地である。その中で道を見失い、暑さと乾きに喘ぎ、先住民を怖れながらも利用しようとする開拓民の姿は確かに似ている。アメリカという国のそもそもの成り立ちが、現在も繰り返されているということなのだろう。卓抜した視点と言える。

上映時間:1時間44分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターで上映中。
"Meek's Cutoff" 英語公式サイト:http://meekscutoff.com/