"The Interrupters"


"The Interrupters" 写真クレジット:Kartemquin Films
アル・カポネ以来犯罪都市として悪名を馳せたシカゴは、今だにその暗い伝統を継承している。90年代初頭から低所得地域でのギャング同士の殺し合いが激化して、年間900人を越える殺人事件が起きた。人口はたかだか300万人に過ぎないことを考えるとこの多さに驚愕する。
被害者の多くはアフリカ系の男性、彼らの過去25年を振り返ると15〜34歳までの死亡原因のトップが殺人によるもの。2010年の殺人事件数は435件と半減してはいるものの、現在でも一日に5回の銃撃事件が起きる状況下で、13歳の少年が十数発の銃弾を受けて殺されるという惨い事件も後を断たない。

本作はその殺人多発地域で、殺人と報復の連鎖を断ち切る地道な活動を続けるグループCeaseFireの活動を追ったドキュメンタリー映画だ。監督は『フープ・ドリームス』(95年)のスティーブ・ジェームズ。NBAスターを目指したシカゴ在住の二少年を4年間追ったドキュメンタリー映画の傑作だ。本作は、『フープ…』で描かれた少年たちの夢と希望を無惨にむしり取っていくコミュ二ティの貧困と暴力の現場に、さらに深く足を踏み入れ、再生の可能性を探っていくシカゴ二部作という趣きの作品。今年観たドキュメンタリー映画のベストワンとして推薦したい。

CeaseFireは殺人が多発した95年に、長くアフリカのエイズ蔓延と闘ってきた疫学者ゲリー・スルトキンによって立ち上げられた。暴力の連鎖は疫病と同じ経路で蔓延していくという見地から、疫病の根絶と同じ方法、即ち最も犯罪件数の高い地域に入って暴力連鎖の根源を断つ活動をするべきであると提唱した。

そのために生まれたのがViolent Interrupter (暴力妨害者、以下VI)という活動家たちで、彼らは皆何らかの犯罪を犯して服役経験を持つ者や、犯罪と関わりを持った経験のある者たちによって構成されている。暴力と犯罪の加害者として生きた経験のある者たちだからこそ、その根源に立ち入ることが出来るという考え方によるもので、実際に大きな効果を上げているようだ。

本作は、悪名高いギャングを父に持ち若い頃から麻薬ディーラーをしていたアメーナ・マシュウズ、11歳で父を殺され、殺人未遂などで3回の服役経験のあるコーヴィ・ウィリアムス、殺人を犯して14年の刑に服したエディ・ボカネグラら3人の活動家たちの一年間の粘り強い活動の様子を追跡している。

殺人事件後に興奮して復讐を叫ぶ若者たちの中に入って報復の無意味さを強く語りかけるアメーナ、出獄したばかりの少年を強盗に入った床屋へ連れていき謝罪させるコーヴィ、目前で最愛の兄を殺された16歳の少女の悲しみと怒りに耳を傾けるエディ、彼らが出かけていくのはまさに「戦場」の真っただ中だ。エディが地域の子供たちに絵を教える場面で、彼が暴力について語り始めるとみるみると顔を曇らせて泣き始める少女に、幼い魂がすでにこれほどの深い傷を受け、怖れを抱いている現状の悲惨さを思った。

危険度の高い活動でありながら、懸命に一人一人に接していくVIたちの真摯な姿は、観る者の胸を打つ。彼らの努力が徒労に終わることが多いにも関わらず、この活動を継続できるのは、VI自身にとっての過去からの解放と癒しの意味を持っているからだろう。忘れたい過去、振り返りたくない己の姿を若者たちに見つけながら、それから目を反らさずに向き合う彼らの勇気に「泥中の蓮華」という言葉が浮かんだ。泥の中から美しい花を咲かせる蓮、彼らはまさに貧困と犯罪の泥の中から、人間の最良の部分を開花させた人々ではないだろうか。

上映時間:2時間5分。サンフランシスコはルミエールシアターで上映中。
"The Interrupters" 英語公式サイト:http://interrupters.kartemquin.com/