"Martha Marcy May Marlene"


"Martha Marcy May Marlene" 写真クレジット:Fox Searchlight Pictures
若い女が公衆電話の受話器を堅く握って、助けを求めてる。何かを怖れ、怯えている様子はただ事ではない。女の名はマーサ(エリザベス・オルセン)、電話の相手は何年も音信普通だった姉ルーシー(サラ・ポールソン)、彼女にとって唯一の親族だ。
姉に助けられたマーサは、姉が夫(ヒュー・ダンシー)と休暇を過ごす湖に面した瀟洒な貸別荘にやってくる。落ち着きの無いマーサの素振りに、姉夫婦はマーサが人に言えない秘密を抱えていることを確信していく。だが、それが何かは分からない。ゆっくりと水が少しづつ床を浸していくように恐怖が広がるサイコ・スリラーだ。

本年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞したショーン・ダーキン監督のデビュー作。長い題名は、マーサがある集団のリーダーだった男(ジョン・ホークス)から付けられた名前からきている。彼女はカルト集団にいたのだ。

そこから逃げ出した彼女が隠している何かは、彼女のこわばった表情と、彼女が纏っている微かな怖れの空気から察するしかない。少しづつ明かされるカルト集団の生活も牧歌的で健康的にすら見える。さりげなく描かれる日常の中で、少しづつ異様な集団規律に染まっていくナイーブな若者たち。気がつくといつのまにか常軌を逸しているのだが、その自覚もないのだ。

怖さを盛り上げるのではなく、背後でフッと風が吹くように見せていく巧みな演出で大きな才能を感じさせるダーキン監督だ。脚本も知人女性のカルト脱出直後数週間の心理変化を丹念に聞き取って書き上げたそうで、カルト批判などの善悪判断のない濃縮された心理の流れを抽出するのに成功している。

この人は分かりやすく畳み込むアメリカのサスペンス映画よりヨーロッパ映画を沢山観てきた人ではないだろうか。マイケル・ハネケ監督の親戚の子といった印象があるが、ハネケほどの毒気はなく、見終わってみるとスタイルばかりが際立って、伝えたいもの核心が掴みかねた。
見どころはマーサを演じたオルセン(双子のオルセン姉妹の妹)で、本作が第二作目とは思えない刺すような強い視線でマーサの秘密へと観客を誘ってくれる。

上映時間:2時間。サンフランシスコは11日からサンダンス・カブキなどのシネコンで上映開始。
"Martha Marcy May Marlene"英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/marthamarcymaymarlene/