"The Descendants"(邦題『ファミリー・ツリー』)


ファミリー・ツリー』写真クレジット:Fox Searchlight Pictures
ハワイの湿気を含んだ柔らかな空気と、優しいハワイアン・ソングが画面を満たす苦くて痛いファミリー・コメディ。原作を書いたのはハワイ生まれの若い女性作家カウイ・ハート・ヘミングスで、彼女の07年のデビュー小説だ。脚本と監督は『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペイン
ちょっと情けないが憎めない男たちを描いてきた人で、本作でもジョージ・クルーニーが『マイレージ、マイライフ』でみせた、仕事は出来るが女に振り回される男という彼得意の役柄を生き生きと演じている。

ハワイに何代も続く家系で広大な土地を所有する弁護士マット・キング(クルーニー)は、誰からもラッキーな男だと思われているが、実は仕事人間のために家族とは別居状態。ある日妻がボートの事故で昏睡状態となり、何年もまともに向き合ってこなかった二人の娘の面倒をみることになる。

10才の次女(アマラ・ミラー)は反抗盛り、17歳の長女(シェイリーン・ウッドリー)もドラッグのリハビリを兼ねた寄宿舎にいた。マットは長女を家に呼び戻し、妻が蘇生したらもう一度家族として出直そうと決意するのだが、医師から回復の可能性がゼロだと伝えられ、さらに妻に恋人がいたことを長女から知らされ衝撃を受ける。

妻のことも娘たちのことも何も知らなかったマットは、いかにこの窮地を乗り越えていくのか。鼻っ柱は強いがどこか寂しい娘たちにはじまり、マットをケチだと非難する妻の父、"Hey Bro!" と呼んでマットの怒りを買う長女のボーイフレンドなど、主人公を囲む脇が個性的に描き出されて笑いを誘う。

その中心で大真面目に忍耐と反省、困惑を繰り返すマットのおかしみ。彼が予想外の行動を起こし、一生懸命になればなるほど娘たちが彼に近づいていく。「ああこれが家族なんだな」と納得させてくれる巧い脚本だ。

後半、舞台がカウアイ島の名勝地に移るが、ゴージャスな景観をゴテゴテ見せることなく、家族のドラマを中心に据えた演出センスも良かった。甘さ控え目、その匙加減が絶妙という上質なコメディの典型と言える。

原作者ヘミングスは雑誌に、母の再婚相手であるサーファーのチャンピオンだった養父への思いを書いており、筋立ては違うが彼女にとって自伝的な意味合いのある小説なのだろう。彼女の大好きな養父を見つめる娘らしいシビアだが愛のある目線が本作の中でも生きている。

上映時間:1時間55分。サンフランシスコは23日から主要シネコンなどで上映中。
"The Descendants" 英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/thedescendants/
ファミリー・ツリー』日本語公式サイト:http://movies.foxjapan.com/familytree/trailer.html