"The Artist"(原題『ジ・アーティスト』)


『ジ・アーティスト』 写真クレジット:The Weinstein Company
美しいモノクロ画面と懐かしい音楽で見せるサイレント映画。しかも1927年のハリウッドを舞台にしたフランス映画というひねりが利いたラブコメディで、久しぶりに動画の楽しさを堪能した。
監督は06年に60年代のスパイものパロディ『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』というおふざけ映画を撮ったミシェル・アザナヴィシウスダン。何がおかしいのか良く分からないこのコメディ映画で全世界約2300万ドルの興行収入を上げた異能の人だ。

主演は『OSS...』にも主演したコメディアン出身のジャン・デュジャルダン。思わず色男という言葉が浮かぶ俳優で、こういう男性はフランスにしか生存していないだろう。細く長い口ひげがよく似合って、クラーク・ゲーブルが蘇ったようだ。彼抜きにはこの映画はあり得なかった絶妙のハマり役で、本作で今年のカンヌ映画祭主演男優賞を得ている。

サイレント映画の大スター、ジョージ・バレンタイン(デュジャルダン)が、トーキーの到来で過去の人になっていくというメインの話に、彼が見い出し、その後大スターとなった若い女ペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)とのロマンスを絡ませていく。

映画ファンならここで1937年に製作され、その後なんどもリメイクされた『スター誕生』を思い出すだろう。ハリウッドの定番「スターの栄光と転落もの」へのオマージュ、いや全編がハリウッド映画への敬愛によって彩られているとも言える作品だ。

二本の指を丸めて口笛を吹くペピーの威勢の良さや、バレンタインの共演者であり心の友でもある犬の愛らしい大活躍、バレンタインへの敬意と忠誠を捧げる老運転手(ジェームズ・クロムウェル)との温かな交流など、ハリウッド映画でおなじみのエピソードがテンポの良く描かれていく。

軽快なダンスステップやメリハリの利いた動作などのディテールを丁寧に積み重ねていく演出力も優れ、台詞がないことが少しも気にならない。

たくさん盛り込まれた笑いも素早いカット割りで見せ、最後のオチも一瞬というスマートさも良かった。肩の凝らないエンターテイメント映画として、サイレントや古いハリウッド映画を観たことがない人でも充分楽しめる映画ではないだろうか。

上映時間:1時間40分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターで上映中。
『ジ・アーティスト』英語公式サイト:http://weinsteinco.com/sites/the-artist/