"Pina, 3D"(邦題『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』)


『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』写真クレジット:IFC Films
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のヴィム・ヴェンダース監督の最新作はダンス映画、しかも3Dだ。天才的舞踏家と呼ばれたピナ・バウシュが率いたドイツのヴッパタール舞踊団のパフォーマンスを追っている。
物語性の強い群舞や屋外を舞台に踊られるロマンチックなペア、激しい感情を漲らせるソロ、動く抽象絵画のような室内舞踏、子供も喜びそうな電車内のパフォーマンスなど、これまで観たことがない斬新な舞踏の数々が登場する。

この舞踏団の特徴は、踊りの概念を覆すユニークなタンツテアター呼ばれる新しい舞踏形態にある。ピナがドイツで生み出したもので、舞踏と演劇の壁を取り払った先鋭的な振り付けだ。

世界20カ国から集まった踊り手の年齢や体型も多様で、均一化されたバレーダンサーと比べると対極的な舞踏団で、個性的な踊り手たちの鍛え抜かれた身体から生み出されるしなやかな動きと豊かな表現力に圧倒される。

多くを語らず踊り手の内側からわき起こる感情を最も大切にしたと言われるピナの舞踏からは、愛と歓び、苦悩と混沌、官能とユーモアなど人間の原質を捉える感情が鮮やかに肉体化されている。

ピナは1940年にドイツで生まれてバレエを学び、その後米国のメトロポリタン・オペラ座をへて、ドイツに帰国し、67年頃から振り付けを始める。73年にヴッパタール・バレエ団の芸術監督となり、タンツテアターを生み出して新作を発表。当初批評家から非難を浴びるが、76年頃からヨーロッパを皮切りに世界で注目を浴びはじめる。オペラやシェークピアなども舞踏化してダンスの可能性を探ったまさに先駆的な舞踏家だった。

彼女の舞台に感銘を受けたヴェンダース監督は09年に本作の撮影の準備を始めたが、その矢先にピナが急逝。映画化は一時断念されたが多くの支援を受けて完成にこぎ着けた。

知的でハイブローな印象の強いピナの舞踏だが、ヴェンダース監督は初心者のためにハイブローの壁をヒョイと飛び越えて、彼女の舞踏の面白さを見せてくれた。監督の踊り手たちに向けた驚きと敬意、愛情のある眼差しを通して、彼女の舞踏世界に出会えたのは幸運と言えるだろう。

ただ3D映像に関しては動きにうねるような奥行きが感じられる部分もあったが、技術的に改良の余地があるように思えた。

上映時間:1時間 43分。サンフランシスコはサンダンス・カブキシアターで上映中。
『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』日本語公式サイト:http://pina.gaga.ne.jp/
"Pina, 3D" 英語公式サイト:http://www.wim-wenders.com/movies/movies_spec/pina/pina.htm