"The Forgiveness of Blood"


"The Forgiveness of Blood" 写真クレジット:IFC Films
血讐(けっしゅう)という言葉を本作を観て初めて知った。アルバニアで15世紀頃から始まった氏族間の掟のことで、殺人に対する報復殺人を認めている。アルバニアという国そのものについてもよく知らなかったが、血讐が現在もまだ生きていることを知って唖然となった。
舞台は現代のアルバニアの辺境地。馬車でパンの配達をしているマーク(リフェト・アバジ)は、かつて彼の祖父が所有した土地が石によって閉ざされていることを知って、土地の主ソコールと口論となる。ソコールはマークの娘ルディナ (シンディ・ラセジ)の前で彼を罵倒し、激高したマークは兄ゼフと共にソコールに会い、彼を殺してしまう。

ゼフは即逮捕されたが、マークは逃亡。ソコール一族より血讐が宣言され、マークの二人の息子は報復殺人の対象となってしまう。長老たちの会議を経て、17才の長男ニキ(トリスタン・ハリラジ)と小学生の弟は家に軟禁状態となり、生計のために14才のルディナが学校を辞めてパンの配達を始め、母は家事を続けるという生活が始まった。

サスペンスフルな展開だが、血讐をめぐる犯罪映画ではない。主眼は血讐という前時代的な掟をティーンの兄妹がどのように生きぬこうとしたか、にある。監督は初作品『そして、ひと粒のひかり』("Maria Full of Grace") で注目を浴びたアメリカ人ジョシュア・マーストン。前作でも自由を求めるコロンビアの若い女性の苦難に満ちた生き方を描いている。
本作では2年近く調査をして脚本を書き上げ、主演の兄妹には演技経験のないアルバニアティーンを配し、俳優では出せない存在感を出すことに成功している。

ネットカフェを始めようとしていたニキと大学を目指していた聡明なルディナ。iPhoneで動画を撮る世代の二人が突然、落差の大きい馬車と血讐という数世紀前に引き戻される。家に銃弾が打ち込まれ、納屋が放火されるまでに発展していく状況下で、銃を持って家を守らねばならない若い兄は苛立ちを高め、妹は配達を妨害されるものの、賢く立ち回って金を得ていく。

性格的な差もあるのだろうが、圧迫に対して反発し爆発していく少年と、受容し強くなっていく少女の対比が鮮やかに描かれて実に面白い。長い歴史の中で、女たちはこんな風に耐え、こんな風に知恵を働かせて、弾力性のある強さを培ってきたのだろう。しかし、エンディングを通して感じられたのはその悲劇性だった。血の繋がりを第一とする社会の暴力性、血の濃さという概念の不合理な重たさを再認識すると共に、自由への希求という思いが強く心に残った。
上映時間:1時間41分。サンフランシスコはブリッジ・シアターで上映中。
"The Forgiveness of Blood" の英語公式サイト:http://www.ifcfilms.com/films/the-forgiveness-of-blood