"Monsieur Lazhar" (邦題『ぼくたちのムッシュ・ラザール』)


『ぼくたちのムッシュ・ラザール』写真クレジット:Music Box Films
モントリオールの小学校を舞台に、心に傷を負った生徒と教師の出会いと癒しへの道のりを描き出した秀作映画だ。11年のトロント国際映画祭で最優秀カナダ映画賞を受賞し、今年のアカデミー賞外国語映画賞にカナダからエントリーされた。
ある朝、元気の良い少年シモンと利発な少女アリスは、担任の女性教師が教室で自殺しているのを発見し、衝撃を受ける。しばらくして、二人のクラスにアルジェリア移民のバシール・ラザール(モハメッド・フェラッグ)が代用教員として着任し、やや古風な授業スタイルを持ち込み生徒たちを戸惑わせる。だが、彼の誠実で熱心な授業に生徒たちは次第に気持ちを開き始め、とりわけ事件の衝撃から抜け出せないアリスはラザールへの信頼を深めていく。

彼も生徒たちが事件の傷から癒されていないことに気づき、クラスで話し合いを持ちたいと校長に提案するが、心の問題はセラピストに任せるべきと言って取り合ってもらえない。実はラザールには誰にも語っていないアルジェリアでの悲劇的体験があり、彼自身も孤独な心の傷を抱えていた。

教師が教室で自殺という特異な状況から始まりながら、過剰なドラマに流れることなく、自然な流れで子供たちと教師の心が近づいていく様子を描いていく。

ラザールは必要があれば主張の出来る人だが、それが否定されても争わない、というしなやかな強さを持った教師だ。子供たちはそんな彼の身近にいることで、生きることの意味や悲劇を乗り越えていく人間の力を学んでいくのではないだろうか。主演のフェラッグ(アルジェリア出身)の飄々とした風貌と立ち振る舞いが、彼の背負う悲劇の重さにリアリティを与えて素晴らしい。

監督/脚本はフィリップ・ファラルドーで、同名の一人芝居を見て感動し映画化を思い立ったという。原作戯曲を書いた女性作家の協力を得て数年かけて脚本を推敲し、撮影に当たっては7週間もカナダの小学校に通って子供たちの生活を観察したという。

作り手が思いを込めて、丁寧に作り上げた映画には澄んだ水のような透明感があるもので、本作はまさにそんな映画の代表と言えるだろう。今年夏日本での公開も決まっている。

上映時間:1時間34分。サンフランシスコはエンバカデロ・シアターで上映中。
『ぼくたちのムッシュ・ラザール』英語公式サイト:http://www.monsieurlazharmovie.com/
『ぼくたちのムッシュ・ラザール』日本語公式サイト:http://www.lazhar-movie.com/