"Polisse"


"Polisse" 写真クレジット:IFC Films
身体の大きなアフリカの若い母が幼い息子を連れて警察にやってくる。「もうこの子を連れてホームレスは続けられない。預かって欲しい」というのだ。対応に当たった捜査官は胸がつぶれ、なんとか二人が入れる施設を探そうと必死になる。事務的な上司に食ってかかり、自分の無力に猛烈に苛立つが、結果は最初から見えていた。
どこか米の人気TV番組『Law and Order』に出てくるエピソードのようであるが、本作の捜査官たちの血はやたらに熱く、かなり人間臭い。政治問題で口角泡を飛ばし、なりふり構わず犯人を追い、事件が解決すれば共に歌い踊る。TVに登場する刑事たちは熱くなっても頭だけ、しかし本作に登場する捜査官たちはいつも全身が熱い。それが作品の大動脈となって観る者を魅了する。

パリ警視庁の未成年保護分隊の活躍を描き、去年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞した作品。親族による性的暴行や人身売買、売春など子供に向けられた犯罪と、それを追求していく捜査官たちの姿をドキュメンタリー・タッチに描いていく。監督が数週間にわたって観察した分隊の捜査状況を反映させ、加害者に対する容赦のない尋問、子供たちから正確な証言を得るために粘り強く質問を続ける様子などが丁寧に描かれ興味深い。

同時に強烈な個性を持った捜査官の人間像をしっかり描き込んでパリに生きる市井の人々の群像劇という趣きになっている。捜査官同士の恋や離婚、ペアを組む女性捜査官の関係の変質などを追って、信頼と友情という言葉では括り切れない孤独な人間像を描き出した点も秀逸だ。さりげない演技を得意とするフランス俳優、とりわけ女優たちが迫力一杯の演技を見せて、画面を生き生きとさせている。

監督は子役出身のマイウェン・ル・ベスコで本作は彼女の4作目。騒然とした分隊の中で写真家として静かに状況を記録する役回りを演じている。

こういう作品を観ていつも思うのだが、日本では親族による子供への性的暴行が話題になることがほとんどないのはなぜだろう。これらの犯罪が欧米社会に特有のこととは思いがたい。被害者だけでなく親族の強い恥意識もあって隠されて続けているか。あってはならない犯罪だからこそ、日本では決して開けてはいけない秘密の扉という気がしてならない。

上映時間:2時間7分。
"Polisse"英語公式サイト:http://www.ifcfilms.com/films/polisse