"The Imposter"


"The Imposter" 写真クレジット:Indomina Releasing
ある少年の失踪を巡る奇妙奇天烈なドキュメンタリー映画を紹介しよう。1994年、テキサス州サンアントニオで13才の少年ニコラスが失踪した。家族らの懸命な捜索に関わらず、少年の行方は知れず月日が流れる。ところが、1997年になって、なんとニコラスがスペインで発見される。
喜んだ家族はスペインまで彼を迎えにいくが、発見された少年は記憶喪失、外国訛りの英語を話し、金髪碧眼のニコラスは似ても似つかない茶髪茶色目の少年だった…。

と、ここまで書くと、本作はこの少年は何者か?を探っていく話だろうと予想するが、これが大間違い。本作は最初からこの少年が、23才のフランス人ペテン師であると明かしてスタートする。

のっけから種明しで始る犯罪ミステリーというのも気の抜ける話で、しばし白けて画面を追っていたのだが、後半になって種明かしには理由があったことが判明する。

ニコラスの家族とペテン師の語りを中心に、彼らの語る過去を再現するドラマ部分と、テキサスに帰ってきたペテン師ニコラスを撮った当時の実写フィルムなどを交えながら、次第に明かされていくもう一つの大きな疑惑。まさに「事実は小説よりも奇なり」な展開である。

それにしても、本作製作時35才になっているペテン師が語った事件の経緯が信じ難い。彼はそもそも身分成り済まし常習犯で、それまでに20件近い事件で国際警察から指名手配をされていたのだ。であるにも関わらず、まんまとスペインの警察とアメリカの警察、FBIを巧みに騙してニコラスに成り済ましてしまった。

この事件で6年の刑を受け、現在はフランスで結婚して二人の子供もいるというが、今後累犯をしないとは言い切れない無反省な語り口に悪寒を感じさせる男である。

「自分は親から愛されなかったので他人になりたかった」と哀れげに語っていたが、この言葉すらも嘘にしか聞こえない。きっと、自分自身ですら自分の真実が分からなくなっているのではないか。ひょっとすると、虚言の天才とはこんな男のことを言うのかもしれない。

監督は英国のバート・レイトン。英国と米国でTV向けドキュメンタリー作品を撮ってきた人で本作が長編初作品。これほど特異な事件と人物を追えたことは監督冥利だったに違いない。

上映時間:1時間39分。サンフランシスコはルミエール・シアターで上映中。
"The Imposter"英語公式サイト:http://imposterfilm.com/