"SAMSARA"


"SAMSARA" 写真クレジット:Oscilloscope Laboratories
くっきりとしたメークのバリの女性ダンサーのクローズアップ、その背後に流れるどこか懐かしいガムランの調べが極彩色に彩られた仏像のアップへと転じ、チベットの僧院へと流れていく巧みなオープ二ング。70mmフィルムに焼き付けた雄大な景観と音楽は、映画館の大きなスクリーンで観てこそ楽しめるものだろう。
5年を掛け世界25カ国、5大陸の大自然と遺跡、宗教儀式、そしてさまざまな様相を見せる人の営みを、ナレーションなしで次々と映し出す映像詩的作品である。

監督/脚本/構成は、92年の『Baraka』を作ったロン・フリックとマーク・マジッドソン、音楽も同様のマイケル・スターンズでアイマックスの音響デザインの専門家。前作と同じチームで作れたせいか構成がとても良く似ており、続けて二作を観たら兄弟のような作品という印象を持った。

荘厳な大自然と世界各国の宗教儀式を描く導入部から、目まぐるしいスピードで動く大都会の俯瞰が登場し、続いて中国の巨大な流れ作業工場、精肉工場へ移る。一転、銃を持つアフリカの部族の姿が登場したかと思うと、「ラブドール」と呼ばれる精巧な日本のダッチワイフが現れる。食、性、貧困、宗教、自然災害、戦争にわたる人間世界の森羅万象が登場する。

フリック監督は映像詩の先駆的作品『コヤニスカッティ』の撮影監督をした人で、本作でも多用されているスローモーションや微速度撮影を専門とし、超高画質の新しい映像システムを改良するなど映像技術の面で力を発揮してきた。その彼が微速度で映し出す満天の星が移動する夜空や砂漠、遺跡にゆっくりと影と光を落とす太陽の動きを捉えた映像は秀逸だ。

また上空からみるミャンマーバガン仏教遺跡の神秘性な佇まい、細密の限りを尽くしたトルコのスルタンアフメト・モスクの天井画、300万人が集うというメッカのマスジド・ハラームの驚異的な俯瞰図などに人と宗教の濃密な関係を思い知らされた。

題名のSAMSARAとはサンスクリット語で輪廻の意味で、監督は人の生と死そして再生を描こうとしたと話している。筆者にはその意味が掴めかねたが、映像が持つ力を損なうものではないだろう。

観る人によって違った感想を持って当然というのが本作の魅力だ。難しいことは考えず、圧倒的な映像と音楽の世界に目と耳と身体を委ね、おもいきり想像力を広げて観ることをお薦めしたい。

上映時間:1時間39分。サンフランシスコは9月7日からエンバカデロ・シアターで上映開始。
"SAMSARA" 英語公式サイト:http://barakasamsara.com/