『The Sessions』


『The Sessions』写真クレジット:Fox Searchlight Pictures
6才でポリオになって以来、ずっと鉄の人工肺の助けで生きて来た男性が、38才になって始めて女性との性体験を持った。相手の女性はセックス・セラピスト。共に実在の人物である。
男性は人工肺に入ったままUCバークレーで勉強を続け、卒業後ジャーナリスト/詩人となったマーク・オブライエン。女性は現在もSFベイエリアでセックス・セラピストを続けるシェリル・コーエン・グリーンだ。

身体に重度の障害のある人の性というテーマを中心に据えているが、深刻さよりも軽妙さが際立つ作品。ポーランド生まれオースラリア育ちのベテラン監督ベン・リューインが、オブライエンの書いた自伝的ストーリーを脚色している。この脚本が、主人公となる男女を奥行きと陰影ある人物像として書き出して素晴らしく、米国の映画としては久々の心に響く秀作だった。

敬虔なクリスチャンであるマーク(ジョン・ホークス)は、女性介護師との失恋体験後、ある決意をして神父(ウィリアム・H・メイシー)に相談に出かける。性体験をするためにセックス・セラピストを頼むつもりだがどう思うか、と言うのだ。婚外の性ということで初めは抵抗感を持つ神父だが、マークの真摯な言葉に神父は耳を傾け始める。

逡巡と緊張の末にようやくシェリル(ヘレン・ハント)と一回目のセッションを持つことになったマーク。プロフェッショナルだが率直で優しい彼女に、彼は魅了されてしまう。既婚者の彼女に恋愛感情をもってはならないと知りながらも、生まれて始めて持った女性との親密な体験に彼は歓喜と混乱を抱え、またしても神父を訪ねるのだった。

マークの変化を神父との語りを通して見せる手法が利いている。猥せつ感を持たせることなく、純粋な性の喜びを語るマークが次第に自信を回復していく様子に説得力があるのだ。また、仕事とは言え何度かマークとの性体験を持つことで、シェリルの心に微妙な変化が起きていくのも、快楽 /生殖機能だけではない性的ふれ合いの不思議さを浮かびあがらせ面白い。

ハントはこの役を全裸で演じて実に清々しく、見終わってもシェリルの誇り高くキリッとした人物像を強く印象に残して、俳優魂を見せつけている。暗い役が多かったホークスも、本作では別人のような無垢な表情をみせて驚かせてくれた。

最後にマークは99年に50才で他界。彼の詩の一節に「人は自分たちは何も出来ないと思っている。しかし、自分たちは何でも出来るのだ」とある。この言葉を私たちすべてに向けられた言葉として受け止めたい。

上映時間:1時間35分。サンフランシスコではエンバカデロ・シアターで上映中。
『The Sessions』英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/thesessions/