"West of Memphis"(原題『ウェスト・オブ・メンフィス』)


"West of Memphis" 写真クレジット:Sony Picture Classics
えん罪事件を扱ったドキュメンタリー映画はたくさんあるが、映画を通して事件解決の過程をみせていくという作品はあまり見たことがない。ウソと偏見、疑惑だらけの証拠と強要された自白などでグルグル巻きになった事件の問題点を一つ一つひも解き、最終的には真犯人と思われる人物まで割り出していく過程は、極上のミステリー映画を見ているよう。無駄な描写を省き、2時間半を緻密な構成で見せていく優れた映画作品だ。
このえん罪事件についてはすでに秀作ドキュメンタリー『パラダイス・ロスト』3部作が作られているので、知っている人も多いだろう。1993年アーカンソー州エスト・メンフィスで8歳になる3人の男の子が殺害され、地元のティーン3人が逮捕されて有罪になった事件である。

当初、被告らがヘビメタのファンで悪魔崇拝者などのレッテルをはられ、逮捕の理由の一つに上げられたために、全米のロックグループから支援の声が上がり「ウエスト・メンフィスの3人を釈放せよ」の呼びかけが注目を集めた。
しかし、再審は否定され続けた。

そんな頃、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督が事件の経緯に関心を持ち、被告の妻や弁護側とも連携を取り、DNAや犯罪医学のスペシャリストに資金を提供して、事件解決の道を探り始めた。

当初は映画化など考えていなかったというジャクソンだが、有罪の決め手になったDNA鑑定のミスが判明したにも関わらず、担当判事が「判決は覆せない」と発言したことが映画化のきっかけになったという。「映画を通して真実に迫ってや る」というジャクソン監督の鼻息が聞こえてきそうだ。

声を掛けたのがドキュメンタリー 『フロム・イーブル (Deliver Us From Evil)』 でアカデミー賞にノ ミネートされたエイミー・バーグ監督。『フロム……』でも対象を徹底的に追いかける姿勢に感嘆したが、本作では事件解決という先の見えない長い過程を丹念に追い続ける粘り強さを見せつけ、第一級の腕前だ。

見終わって、一度有罪と決まったものを覆すことの至難さを思い知らされた。きっと、全米にはメディアや有名人らの注目を集めることもない幾百というえん罪事件があり、無実の罪で投獄されている人々が多数いるに違いない。それを思うと、ここで釈放された青年たちの奇跡的幸運を思わざるを得ない。

上映時間:2時間27分。
"West of Memphis"英語公式サイト:http://www.sonyclassics.com/westofmemphis/