"At Any Price"


"At Any Price" 写真クレジット:Sony Pictures Classics
トウモロコシの88%が遺伝子組み換え(以下GMO)といわれる米国農業の実態をドラマに反映させた意欲的映画を紹介しよう。
アイオワ州で3,000エーカーという広大な農場を持つウップル家のヘンリー(デニス・クエイド)は、家族3代受け継がれてきた農地を守りつつ、リバティ社のGMOトウモロコシの種を売るセールスマンもしていた。農業の巨大産業化に伴い、GMOの種を使う以外生き延びる道はなく、農家は「拡張か死か」の選択を迫られていた。
野心的なヘンリーはその波に乗って利益を上げていたが、強力なライバルが現れ、顧客が奪われてしまう。しかも、出来の良い長男は大学卒業後も家に帰らず、一緒に暮らす次男ディーン(ザック・エフロン)は、レースドライバーになりたいと言い出してヘンリーに反抗。成功者に見える彼の人生に影が差し始める。

そんな頃、毎年買い換えるべきGMOの種をヘンリーが再利用していたことが通報され、リバティ社の捜査員が捜索にやってくる。もし種の再利用が証明されると、ヘンリーの農場はつぶれる。追いつめられたヘンリーは、なんとかディーンの心を掴もうと彼のレースの応援に出かけるのだった。

なかなか良くできた脚本で、どこかアーサー・ミラーによる戯曲『セールスマンの死』を彷彿とさせる。父と息子の確執のドラマを前面で見せながら、背後には種子に知的財産権を持たせるGMO農業の現状を巧みに書き込み、作品に大きな意味を持たせている。

監督はイラン系米国人のラミン・バーラニ、脚本はハリー・エリザベス・ニュートンと共同執筆している。『チョップショップ 〜 クイーンズの少年』や『グッバイ ソロ』など低予算で優れた映画作品を作ってきたニューヨークの映画人である。
本作のリサーチのためにトウモロコシ農場に滞在し、農家の人々から現状をつぶさに聞き取り、GMOの大手、モンサント社の捜査員の服装や語り口をそっくりそのまま本作に反映したと言う。

シビアな金と競争の原理が支配する現状で、人の口に入る食物を育てる意識と命への責任感が農業から消えた。そして、人の良心すらもその影響から無縁ではいられない。エンディングが見せてくれたものは、米国農業の悲劇ではなく、米国の、否、人類の悲劇ではないだろうか。
上映時間:1時間45分。
"At Any Price" 英語公式サイト:http://sonyclassics.com/atanyprice/