"‪Love Is All You Need‬"(邦題『愛さえあれば』)


『愛さえあれば』写真クレジット:Sony Pictures Classics
中年男女の恋を描いたロマンチック・コメディだ。このジャンルで面白い作品はあまり多くない。話の結末が見えているという致命的な問題があるからかもしれない。
未知の二人が出会って恋に落ち、誤解や思い込みが二人を遠ざけるが、もうダメかと思った頃に事件が起きて二人の心は近づく…というのがお決まりのコース。本作も定石通りだが、恋愛映画に欠かせないゴージャスなロケーションと、中年男女の長い人生に射した影の側面もサラリと描いて好感が持てた。

コペンハーゲンで会社を経営する英国人フィリップ(ピアース・ブロスナン)は、亡くなった最愛の妻を忘れられず仕事中毒状態。不機嫌なボスで通してきたが、息子がイタリアのヴィラで結婚式をすることになり、久しぶりの休暇に出かける。
ところが空港で車に衝突される。なんとぶつかって来た車を運転していたのは息子の婚約者の母親イーダ(トリーネ・ディアホルム)だった。二人はしぶしぶ旅友となり、美しい南イタリアのソレントへと向かうことになる。

花嫁の母と花婿の父の出会いは最悪、しかもイーダは乳がん治療が終わったばかりなのに夫の不倫が発覚してイタリアへは傷心の一人旅、という設定。
イーダの夫が恋人を連れてヴィラに現れてひと騒動になるが、それでも夫を責めないイーダが面白い。ここまでお人好しで良いの?と思うが、せっかくやってきた瀟酒なヴィラで醜い夫婦喧嘩はつまらない。ガン治療から解放され、自由を満喫したいイーダの気持ちは分からぬでもない、という気になってくる。

監督は10年の『未来を生きる君たちへ』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したスサンネ・ビアデンマークの映画界をリードする一人で、『ある愛の風景』や『アフター・ウェディング』など、複雑な恋愛/家族関係を描くことで定評があるが、本作では一転。拍子抜けするほど明るくウィットに富んだロマンスを描いている。
イーダのキャラクターは楽天的だったビア監督の母親をモデルにしたとのこと。脚本は本作でビア監督とのコラボ5作目になるアナス・トーマス・イェンセン。

ビア作品に多く出ているディアホルムや亡妻の妹を演じたパプリカ・スティーンなど、北欧映画を支える実力派女優の競演も見どころの一つ。驚きも謎もないが、快適な船旅を楽しむ気分で観てはどうだろう。
上映時間:1時間52分。
『愛さえあれば』日本語公式サイト:http://www.aisaeareba.jp/
『愛さえあれば』英語公式サイト:http://sonyclassics.com/loveisallyouneed/#home.html