"Spark:A Burning Man Story"


"Spark:A Burning Man Story" 写真クレジット:写真クレジット:A Spark Pictures Production
バーニング・マンというと思い出す女性がいる。このイベントに関っていた人で、末期のガンだった。医療機関でのガン治療は一切せず、断食や東洋医学だけでガンと向き合っていたのだが、驚いたのは彼女の治療費のすべてを旧友の女性が出していたことだった。すごい女性たちがいるなあ、と感心した記憶がある。
バーニング・マンは、8月末の一週間ネバダ州の砂漠で開催される巨大アートの展示とコミュニティ社会を実践する大イベントのこと。最終日にザ・マンと呼ばれる巨大な像を燃やすことで知られ、86年にサンフランシスコのビーチで始まって以来、年々規模が拡大して、昨年は6万人が集まったという。

本作は昨年のイベントに向けた会議と準備、参加アーティストの製作の様子、ハレのイベントまでを手際よく網羅したドキュメンタリー作品だ。

このイベントを称して「世界最大のバカ騒ぎ」と呼ぶ人もいるようで、確かに、奇抜な仮装やパフォーマンス、コンサートやパーティーなどを映し出した映像から狂宴を嗅ぎ取ることもできる。なにしろ過酷な気候の下、砂漠のまん中に「ブラック・ロック・シティ」なる街をつくり、巨大アートを展示して、電気、水道、携帯なしで6万人の参加者が実験的生活を営むのである。何でもアリの狂宴になっても不思議はない。が、ただの狂宴なら27年も続かなかっただろう。

バーニング・マンにはユニークなルールがある。参加者は生活に必要な住まいから水、食料まですべてを自分で用意する。街の中では金銭のやりとりは一切無し。ギフト・エコノミーと呼ばれる、見返りを期待しないで人に与えることを実践、物々交換もダメというのである。なるほど魅力的な空間で、年々参加者が増える理由も納得だ。

年間を通して共同創立者らによって運営されている事務局の存在も大きい。本作では、バーニング・マンのスタート時からイベントの精神を守り、拡大する問題を解決してきた有能な女性スタッフらの考え方がよく反映されており、作品のバックボーンになっている。前出の女性たちを思い出したのも当然で、見返りを期待しないで友人の治療費を出し続けた女性の精神性が今になって納得できる思いだった。

共同創立者の一人の「私たちは70歳80歳になっても互いを助け合っていくと思う」という言葉に、気負いではなく、若い頃に共有した理想を守り続ける女性たちの自信が感じられ、力強いものがあった。
監督はスティーブ・ブラウンとジェシー・ディーター。

上映時間:1時間30分。iTune Movieで視聴可能。
"Spark:A Burning Man Story" 英語公式サイト:http://www.sparkpictures.com/