"Gravity"(邦題『ゼロ・グラビティ』)


ゼロ・グラビティ』写真クレジット:Warner Bros.Pictures
今月上旬の公開と同時に興行成績第一位になった大ヒットSF映画。その理由が十分納得できる傑作映画で、しばらく観賞後の興奮が醒めず、すぐにもう一度観たいという衝動に駆られた。
舞台は地上600kmの地球の軌道上。スペース・シャトルのミッション・スペシャリストであるライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)はバイオメディカル・エンジニア。話好きのベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)と船外での作業をしていた。すると突然、ロシアが打ち上げたミサイルによって出来た宇宙ゴミの一群が猛スピードで流れてきた。あっという間にシャトルは全壊、なんとストーンとコワルスキーは宇宙の暗闇に投げ出されてしまう。ヒューストンとの交信も切れ、2人は離れ離れになって宇宙を浮遊していく。

2人が生還できるのかに物語の焦点は動いていくが、本作は危機脱出を手際よく見せる娯楽サスペンス映画ではない。そこに本作大ヒットの秘密があるように思う。

音も空気も重力も無い宇宙空間に放り出された人間の体験とはどんなものか、誰もが興味を抱く問いだろう。観客はまず、シャトルから回転しながら吹き飛ばされたストーンの視点で、海と大地と雲を抱く大きな地球と宇宙の深い闇とを交互に見る。
ストーンの荒い息遣いを聞きながら観る青い地球の美しさと、どこまでも続く漆黒の宇宙の大きさ。続いてストーンの姿が遠のき、宇宙の闇の中でどんどん小さくなっていく……。胸が締め付られる一瞬、ふと観客全員が一つになった感じがした。

優れた映画作品には普遍性がある。宇宙に取り残されたストーンの孤独は、貧富や国、宗教の違いを越えて誰もが一瞬にして理解できるものではないだろうか。作り手は本作を通して、人間が持つ根源的孤独と生への希求を体験させてくれたのである。

監督はメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン。息子ホナスと共に脚本も書いている。彼は06年の『トゥモロー・ワールド』でも近未来の人間の苦悩を描いて優れた創造性と先見性を見せつけたヴィジョナリーと呼ぶに相応しい映画作家である。

音の無い宇宙ではあるが、宇宙からの交信を思わせるスティーブン・プライスの音楽が深く広大な宇宙感を際立たせ、CGで再現された地球や宇宙、シャトルの破壊シーンなどの鮮明な映像に特撮映画というジャンルを越える映像世界の可能性が感じられた。

また、本作のために6カ月間体を鍛えたというブロックが素晴らしく、宇宙服のヘルメットを通した目の演技は特筆したい。コメディアンヌとして知られる彼女だが本作で俳優として幅を大きく広げた感がある。
たった2人のキャストと優れたスタッフで作り上げたSF映画の傑作。本作はキュアロンの最高作というだけでなく、映画史に残る作品だと思う。ぜひ映画館の3D版で観ることをおすすめしたい。

上映時間:1時間31分。全米のシネコン等で上映中。
ゼロ・グラビティ』英語公式サイト:http://gravitymovie.warnerbros.com/
ゼロ・グラビティ』日本語公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/