"Enough Said"


"Enough Said" 写真クレジット:20th Century Fox
今年6月に急逝した『ザ・ソプラノズ哀愁のマフィア』のジェームズ・ギャンドルフィーニの遺作となった映画作品。ロサンゼルスを舞台に離婚歴のある中年男女の恋を描いたコメディで、ロマンスにも笑いにもかなりのヒネリが利いた大人の恋愛映画で面白く観ることができた。
大学への進学が決まった娘と2人で暮らすエヴァ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)は、大きなマッサージ台を車に積んで顧客の家を訪問するマッサージ師だ。
ある晩パーティでアルバート(ギャンドルフィーニ)と出会って、軽いデートを始める。同じパーティで詩人のマリアンヌ(キャサリン・キーナー)とも知り合ったエヴァは、マリアンヌの趣味の良い家にマッサージために頻繁に訪ねるようになる。
前夫との離婚の理由となった生活感覚に対する嫌悪感を口にするマリアンヌ。エヴァは、次第に彼女の前夫がアルバートだったこと知るが、アルバートにもマリアンヌにも双方と会っていることを隠し続ける。そして、深まりつつあるアルバートとの関係にマリアンヌの悪口が影響を及ぼし始めるのだった。

脚本/監督は『セックス・アンド・マネー』や『善意の向こう側』などを手がけてたニコール・ホロフセナー。大都会で暮らす欠点や弱さをもった中流白人女性を主人公にした作品を多く作っている人だ。本作もまさに彼女の得意とするジャンルで、久しぶりの恋愛にぎこちない言葉を交わす主人公2人に始まって、マリアンヌの容赦のない前夫への悪口、生意気だが親思いでもある娘たちの親へのコメントなど、登場人物一人一人の性格が台詞を通してくっきり浮かびあがるよく書けた脚本で、ホロフセナーらしい精彩を放っている。

付き合い始めたばかりのアルバートへの視点が、知らず知らず前妻と同じになってしまったエヴァ。なぜ彼女はマリアンヌの悪口を聞き続けたのか? 好感を持った男ではあるが久しぶりの恋愛にガードが堅くなったのか、自分の男性観に自信が持てないのか。どこか姑息な印象があるエヴァで、恋愛映画の主人公としては好感度が低い異色のキャラクターだが、それが本作の味わいでもある。

実を言うとホロフセナー作品は見終わった後にどこか後味の悪さが残って苦手だったのだが、本作は違っていた。
この恋愛で最も傷付いたアルバートが等身大の中年男として描かれていたからだと思う。太っちょでちょっとオタクな仕事をしているアルバートの優しさや正直さには嘘がなく、かなり困った女達が登場する本作を救っている。その意味ではホロフセナーの成長を感じさせる作品でもあり、悪役の印象が強いギャンドルフィーニの俳優としての力量と人間的な温かさを伝えている。

ジェームズ・ギャンドルフィーニ、享年51歳、早過ぎる旅立ちが惜しまれてならない。
上映時間:1時間33分。
"Enough Said" 英語公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/enoughsaid/