"Let the Fire Burn"


"Let the Fire Burn" 写真クレジット:Zeitgeist Films
1985年5月13日、フィラデルフィア警察によって市内のアフリカ系組織ムーヴ(MOVE)の家が爆撃され、子供5人を含む11人が殺害された。生存者はたった二人。大都市の住宅地域でなぜ警察は爆弾を落としたのか? 本作はこの異様な事件の真相に迫るドキュメタリー映画だ。
歴史的事件を扱うドキュメンタリー映画の多くは、当時の記録映像と事件関係者や学者へのインタビューなどで構成されることが多い。だが本作は解説や回想などを一切排し、当時の記録フィルムだけを編集して、嘘の多い事件の概要と全貌を明かしていく。そのミニマムな手法が見事な切れ味となり、作り手の気迫に呑み込まれた。

ムーヴは、70年代初頭にフィラデルフィアブラックパンサーの動きと連動するように誕生した小組織だ。パンサー同様に米国の人種差別を問題しつつ、自然への回帰、動物愛護、反テクノロジーを信条とする組織で、ハンディマンだったジョン・アフリカが創立者した。
市内で共同生活をしていたムーヴのメンバーたちは全てアフリカという姓を名乗り、ジョンの書いたガイドラインに従って、反テク、菜食の生活をしていた。だが、彼らの独特な生活習慣と騒音が近所住民とのトラブルを生み、警察との軋轢も次第に拡大、逮捕者が続出する。
ムーヴが自衛のために銃で武装し始めた76年あたりから市との対立は決定的となり、立ち退きに反対して家に立てこもったメンバーたちと警察の間で銃撃戦となり警官一人が死亡。移転後も近所と警察とのトラブルは続き、ついに85年の事件へと事態はエスカレートしていく。

本作はこの経緯を記録映像やニュースなどを多用して見せ、5月13日の事件は緊迫した状況を時間で追って報道するTVニュースと、事件後に開かれた公聴会、そして子供として唯一生存者したバーディ・アフリカへのインタビュー・フィルムを使って立体的に見せていく。

タイトルのLet the Fire Burn(火を燃えるままにしろ)は、ヘリコプターによる爆撃を指示した警察署長の言葉。爆撃後、延焼して近隣61軒の家が全焼、ムーヴのメンバーは結果的に焼死した訳だが、署長がその言葉を発する場面も本作には出てくる。
警官や警察署長らの証言とバーディの証言との大きな食い違いを通して、ムーヴ11人の死は不可抗力ではなく、警察と消防によって仕組まれた虐殺だったのではないか?という疑念が強くなる。燃え盛る家から逃げ出そうとした子供たちが、外で銃を構えた警官たちを怖れて家から出られなかったと証言するバーディが痛ましい。

監督は本作が初作品のジェイソン・オスダー。事件当時にフィラデルフィア郊外に住み、焼死した子供たちと同年代だった彼は、事件の衝撃と恐ろしさを覚えており、まったく顧みられることのない事件の真相を明かしたかったと語っている。「なぜ親も警察も子供たちを守れなかったのか?」という彼の真摯な問いかけが本作を力強い作品に押し上げている。

事件のもう一人の生存者である女性ラモナ・アフリカは服役し、出獄後は事件の不当性と警官殺害容疑で死刑囚となっているムミア・アブ・ジャマールの無罪を訴え続けている。だが事件については大陪審が2回の調査し、警察の過失が明らかになったにも関わらず、市及び警察、消防関係の誰も訴追を受けていない。やはり、という言葉が洩れた。

上映時間:1時間35分。
"Let the Fire Burn" 英語公式サイト:http://www.letthefireburn.com/