『Labor Day』(邦題『とらわれて夏』)


とらわれて夏』写真クレジット:Paramount Pictures
1987年、夏の終わりレイバーデイの週末をヘンリー(トビー・マグワイア)が回想する。鬱気味の母アデル(ケイト・ウィンスレット)と二人暮らしだった当時13歳ヘンリー(トリン・グリフィス)は、母と買い物に出かけた店で脱走犯フランク(ジョシュ・ブローリン)に捕まってしまう。息子を人質に取られたアデルは、フランクの言う通り彼を家に連れ帰り、匿うことに。
一刻も早くフランクに出て行って欲しい二人だったが、なんとフランクは二人のために夕食を作って食べさせた。翌朝も朝食を作り、家の中の壊れたものや車まで直し始めたフランクに、二人は気を許し始める。金/土曜と日をへていくうちに、二人に優しく振る舞うフランクに対して、ヘンリーは父を、アデルは夫の像を重ねていくのだった。

JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』『ヤング≒アダルト』など、これまで撮った作品がすべてアタリのジェイソン・ライトマン監督の最新作だ。彼は自己チューな理屈をこね回す主人公を描くコメディを得意としてきた人だが、本作では新たなジャンルに挑戦。夫が去った母子家庭に、家族を失った苦い過去を持つ犯罪者が闖入して立ち上がるシリアスな疑似家族ドラマである。
しかも男は脱走犯。サスペンスもたっぷりの筈なのだが、ドラマもスリルも空気抜け状態、人間描写に絶妙な手腕を見せて来たライトマン監督らしからぬ作品だった。

男が家に来た前半には緊迫感があったが、後半になって話がまさかという方向に転じて失速。リアリティが無いままエンディングでは「出来過ぎ」という気分にさせられた。
ハッピーエンドが嫌いな訳ではないが、怖さや謎のない甘さはイタダケナイ。問題はジョイス・メイナードの書いた原作にあったのかもしれないが、脚色もしたライトマンが、なぜ物語に謎を残さなかったのかが疑問だ。

なぜアデルは鬱になったのか、なぜヘンリーの父はアデルを捨てて別の女と一緒になったのか、ヘンリーは成長してその後何をしているのか、この一家の謎をすべてを全部つまびらかに説明してくれるのだ。これでは興ざめである。

また、フランクが家族を失った経緯も点描されていくが、その描写に男の暴力への批評性が欠落していたため、フランクの実像が不鮮明。最後までこの男の優しさを信じることが出来なかった。その結果、ウィンスレットとブローリンの好演も浮ついてしまい、説得力を持てなかったように思う。
見どころは少年ヘンリーを演じたグリフィスで、危うい母への思いやりと脱走犯への怖れなどを目の演技だけで演じ分け、非凡な才能を感じさせた。

全般にツメの甘さが気になった本作、大好きなライトマン監督なのでこれかも違ったジャンルへの挑戦を続けて欲しい。

上映時間:1時間 51分。
『Labor Day』英語公式サイト:http://www.labordaymovie.com/
とらわれて夏』日本語公式サイト:http://www.torawarete.jp/