『The Rocket』


『The Rocket』写真クレジット:Kino Lorber Incorporated
劇映画としては珍しいラオスを舞台にした少年の物語。双子として生まれために、家に不幸を持ち込むと烙印された少年が、紆余曲折をへて家族と一つになっていく冒険と成長を描き、去年のトライベッカ映画祭の最優秀作品賞など世界の映画祭で各賞を受賞している。
10歳になるアロ(の住む村はダムの底に沈むことになり、両親と祖母4人で一家は山の上に強制退去を命じられる。移転の途中で起きた悲劇的事故を「アロのせいだ」と決めつける迷信深い祖母。自分はやはり不吉な子なのだと思い込むアロの心は暗かった。
その後、山の仮設キャンプで知り合った9歳の孤児キアと彼女の風変わりな叔父パープルと親しくなったアロは、いたずらをしてキャンプの人々から目の敵にされる。
キャンプにいられなくなったアロの一家はキアたちと共にパープルの故郷の村へ向かう。ところが、着いてみると村はもぬけの殻。度重なる戦火の結果、不発弾が村中に散乱し、村は人の住める状態ではなかったのだ。

後半はこの村で毎年行われている「ロケット祭り」に参加して、優勝を目指すアロの姿を軽快に追っていく。
前半は民話的な語り口だが、パープルと知り合った頃からコミカルなトーンが出て来て、ロケット発射で華やかな大団円を迎える。結末はミエミエ、話も作り過ぎの感がなくはなかったが、主演少年が愛らしかったことに加え、ラオス山岳地帯の景観の素晴らしさ、さらにはラオスの文化と歴史、現状が巧みに物語に組み込まれて、最後まで面白く観ることができた。

脚本/監督はラオスで不発弾除去をするスペシャリストを追ったドキュメンタリーを作ったオーストラリアのキム・モルダウト。戦火/戦渦を追う記録映画を長年撮って来た人で、劇映画は本作が初めて。ラオスで多くの子供たちの姿に触れて、ぜひ子供を主人公にした映画と作ろうと思い立ったという。
迷信や不発弾など主人公にとっての悲劇的な要素を、子供らしいバイタリティではね返していく物語が清々しく、モルダウト監督のラオスの子供たちへの愛が素直に伝わってきた。思わず吹き出すパープルの人物像も実在の男性をモデルにしているとのことだ。

本作を観て初めて知ったことだが、ラオスは世界中で人間一人当たり一番多くの爆撃を受けた国だと言われ、未だに不発弾が全土に埋まっているのは本作通り。またダム建設のため村を追われたアロ一家だが、実はこのダムで作くられた電気は外国に売られるもので、ラオス人には何の恩恵も与えない、など厳しい現状を知った。
しかし、本作にはラオスについて「お勉強させられた」感はなく、生き生きとした少年に案内されてラオスの生活を覗かせてもらった印象だ。ぜひ、世界中の子供たちにも観てもらいたいと思った。

上映時間:1時間36分。
『The Rocket』英語公式サイト:http://www.therocket-movie.com/