"August: Osage County"(邦題『8月の家族たち』)


『8月の家族たち』写真クレジット:The Weinstein Company
真夏の盛り、オクラホマの田舎で妻ヴァイオレット(メリル・ストリープ)と二人で暮らす酒浸りの詩人ベバリー(サム・シェパード)が失踪した。ヴァイオレットは娘たちを家に呼び寄せる。別居中の夫(ユアン・マクレガー)と反抗盛りの娘(アビゲイル・ブレスリン)と共に駆けつけた長女バーバラ(ジュリア・ロバーツ)と両親の近くに暮らす独身の次女アイヴィー(ジュリアンヌ・ニコルソン)、真っ赤な車で婚約者と共にやってきた三女カレン(ジュリエット・ルイス)が久しぶりに顔を揃えた。
疎遠だった三姉妹は、口腔ガンを患う母が薬漬け状態で娘たちに容赦のない毒舌を吐きちらすありさまに辟易とする。数日後、ベバリーの遺体が湖で発見されたのを機に、母と娘たちが抱える互いへの確執と秘密が明かされていく。

原作は08年にシカゴで初上演されヒットした同名の舞台劇で、トレイシー・レッツの書いた戯曲はピュリッツァー賞トニー賞を受賞。本作の脚本もレッツが執筆している。

上記以外にもクリス・クーパーベネディクト・カンバーバッチなどが脇を固めて、ディスファンクショナルな家族の物語が繰り広げられる。舞台劇が原型なので家族同士の会話を中心に話が進むが、女たちの秘密がサスペンスをはらんで明かされていく演出が優れ、退屈することはなかった。監督は『カンパニー・メン』のジョン・ウェルズだ。

それにしても薬漬けとは言えこの母の口の悪さと激しさは超ど級である。名優ストリープが憎々しさ全開で最悪母を熱演。これをやり過ぎと感じるか、巧いと感じるかで作品の好みが別れるところだろう。娘に対して毒気たっぷりの嫌味を言う母、なぜ彼女は娘たちをいたぶるのか? 理由の一端は最後に明かされるが正当化出来るとは思えない。

母の毒を受けて立つしっかり者の長女にも母に似た激しさがあり、夫がそのことに耐え難さを感じていることもサラリと描かれる。母から娘へと受け継がれる負の要素、そのことに気付く長女のがく然たる思いが痛々しく、ロバーツが生々しい表情でこの役を好演をしている。長い間好作品に恵まれなかったロバーツにとっては起死回生の役回りであり、久しぶりにアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。

気丈な娘、沈黙する娘、喋り続ける娘。強烈な母を持った三姉妹それぞれのディスファンクションもよく描き分けられ、ふと自分のことを思い返す女性も多いのではないだろうか。筆者も思わず落涙する場面が何度かあった。

戯曲とは違うエンディングは、プロデュ−サーの要望によるものだったらしいが、戯曲のままの終わり方の方がテーマが明確だったように思う。映画の観客は希望を好み、舞台の観客はリアリティを好むのかもしれない。

上映時間:2時間11分。日本では4月18日劇場公開予定
"August: Osage County" 英語公式サイト:http://augustosagecountyfilm.com/
『8月の家族たち』日本語公式サイト:http://august.asmik-ace.co.jp/