"The Monuments Men"(邦題『ミケランジェロ・プロジェクト』)


ミケランジェロ・プロジェクト』写真クレジット:Columbia Pictures
第二次大戦中、欧州各国に侵攻していたナチス総統ヒットラーは、各国から数多くの美術品を盗み隠匿していた。ハーバード大の美術館長ストークス(ジョージ・クルーニー)は、人類の文化遺産である盗まれた美術品のありかを突き止め、所有者に返すべきだ、とルーズベルト大統領に訴える。そして、中世美術専門家グレンジャー(マット・デイモン)や彫刻家ガーフィールドジョン・グッドマン) 、建築家キャンベル(ビル・マーレイ)など7人が集められた。
彼らは「モニュメント・メン」と呼ばれ、若い兵士と共に軍事訓練をした後に欧州へと向かう。グレンジャーはパリで美術品の行方を知るシモン(ケイト・ブランシェット )に近づくが、彼女は米国が美術品を奪うのではないかと疑い、堅く口を閉ざしていた。

実話である。ヒットラーによる美術品の略奪は欧州各国にある美術品の五分の一にあたり、散逸したまま今だに行方不明の美術品も多いらしい。07年に公開されたドキュメンタリーの秀作『ヨーロッパの略奪』がその実態を詳しく伝えていおり、「モニュメント・メン」も実在した。

ルーニーが共同脚本を書き、製作/監督している。彼は13年に実話『アルゴ』の製作をしてアカデミー賞作品賞を得ている。二作品に共通するのは米国の勇敢な人物が他国へ行き、何か(人質や美術品)を救うという点。米国人にとってはスリリングで胸のすくような物語で『アルゴ』は成功したが、本作は配役の通りコメディのトーンが加わっている。
さらに、クルーニーとデイモンというと『オーシャンズ』の続編的な感じもあって、豪華な配役で盗まれた美術品を見つけ出そうという痛快冒険物語のしつらえだ。というか、痛快なハズだったと言うべきか。

主人公が8人も登場するので、それぞれの見せ場を作るために、いくつかのエピソードが出てくる。それが喜劇的だったり悲劇的だったりとバラバラで、作品全般のトーンが掴めない。しかも、お宝探しのサスペンスも盛り上がりに欠けている。ふと、ケーリー・グラントジャック・レモンが出ていた古き良きハリウッドの戦争コメディを思い出してしまった。本作の男たちには『オーシャンズ』の泥棒たちが持っていたクールさやスマートがなく、皆どこか能天気なのだ。

米国の第二次大戦の正義/英雄的闘いへの自画自賛癖によって製作されてきた多くの戦争コメディ。あの手の映画は1950年代までは通用したかもしれないが、21世紀では無理だ。確かに「モニュメント・メン」の活躍で世界の文化遺産は救われた思うが、その「勇敢なる」行為に今さら盛大な拍手を送れない。自画自賛の臭いがするからだ。

イラク戦争の開始直後にイラク国立博物館が略奪され、人類の貴重な遺産メソポタミア文明の発掘物など十数万点が散逸したことが思い出されてならない。あの時は、米軍は油田を守ったが博物館を守らなかった。政権の違いということなのか。

ルーニーは『スーパーチューズデー』など社会批評を込めた優れた映画作品を作ってきた人なので、なぜこんな作品を作ったのか首を捻ってしまった。自国に誇りを持つことは素晴らしことかもしれないが、自国の利を離れて物事を見ることも大切なのではないだろうか。

上映時間:1時間50分。全米各地のシネコン等で上映中。
"The Monuments Men"英語公式サイト:http://www.monumentsmen.com/
ミケランジェロ・プロジェクト』日本語公式サイト:http://www.foxmovies.jp/miche-project/