“Nebraska”(邦題『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』)


ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』写真クレジット:Paramount Vintage
当地にいれば誰でも経験のある「あなたに百万ドルが当たりました」という郵便を使ったペテン商法。これを現実だと思い込んでしまったウディ(ブルース・ダーン)は、賞金を取りに行くと言い張り、次男デイビッド(ウィル・フォーテ)を困惑させる。
そんな夫に呆れ切っている妻(ジューン・スキッブ)は、彼に容赦のない言葉を投げかける。息子は父への説得を試みるが、あまりの頑固さに根を上げ、彼を連れてネブラスカ向かうことに。
旅の途中で寄った父の生まれ故郷で起きた小さな騒動を通して、父の実像を垣間みた息子は、彼の夢を応援してやろうと思い始めるのだった。

現実認識がぼやけてしまった父と、負け組感の強い息子とのロードムービー。白黒画面が現実という色彩を失いつつある老父の世界を映し出し、ほろ苦いコメディ映画の秀作に仕上がっている。

監督は12年の『ファミリー・ツリー』で多くの映画賞を受賞したアレクサンダー・ペイン。良質のコメディを作り続けている人で、ロードムービーは『サイドウェイ』に続いて2回目、ネブラスカを舞台にしたのは4作目になる。
彼が作るコメディの特徴は話を面白く作り過ぎないところにあって、本作では思わずクスッと時おり爆笑のバランスが絶妙。自身の手法にさらなる磨きをかけた感がある。しかも、情けない父と息子の物語なのに安っぽい涙やほのぼの感への着地もなく、ドライな笑いへの洗練が感じられた。

多くを語らず説明せず、さらりとウディの過去に触れていくボブ・ネルソンの脚本も優れ、本作でアカデミー賞6部門ノミネート。主演のダーンは去年のカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞している。

確かにダーンは素晴らしかった。やや口を開いてボーッとしている表情に、本当にこの人の意識は一瞬どこかに行っているのではないか、と思わされた。実は92歳になる筆者の父にそっくりだったのだ。演じることは意識的な行為のハズなので、逆に意識を抜く演技は難しいのでないだろうか。ダーン77歳、芸歴50年以上の至芸である。

また、塩辛い台詞を吐いて息子をゲンナリさせる母役のスキッブ(84歳)のシャープさが、父役ダーンと好対照。こちらもまた筆者の母にそっくりで、国も文化も違うのに老齢夫婦の枯れ方の共通性が面白く、とりわけ味わい深い作品となった。

上映時間:1時間55分。
“Nebraska”英語公式サイト:http://www.nebraskamovie.com/
ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』日本語公式サイト:http://nebraska-movie.jp/