"Le Week-End"


"Le Week-End" 写真クレジット:Music Box Films
子供も成長し孫も出来た初老の夫婦が主人公。何十年も結婚している夫婦にとって、愛なのか嫌悪なのかまったく分からなくなる一瞬が何度もあるはず。本作はそんな団塊夫婦の不協和音だらけの現実をユーモアに包んで見せてくれる。
結婚30年を祝うためにニック(ジム・ブロードベント)とメグ(リンゼイ・ダンカン)は、パリにやってきた。パリは英国人の2人がハネームを過ごした街。ところが予約したホテルの部屋はベージュ色で装飾された小部屋で、華やかなパリを期待していたメグは不満タラタラ。
ホテルを飛び出し、ニックに相談もせず高級ホテルの部屋を取ってしまう。豪華なホテルの部屋で「触って良いかい?」と聞くニックに「何のために?」とぴしゃりと返すメグ。その晩、彼女はニックに新しい生活を始めたいと言い出すのだった。

たった2日間の週末のパリで起きる夫婦のドラマには、長年結婚生活を送っている人なら分かる感情や感覚がつまっている。日本では夫が定年したとたん離婚する女性が増えたといわれるが、60代を過ぎて違った生き方をしたい妻と安穏な老後を期待する夫というパターンは英国人でも同じようだ。
「子供が去って2人だけになった自分たちに何が残っているの?」と問うメグにニックはショックを受ける。

街に出た2人はニックのケンブリッジ大での友だちモーガンジェフ・ゴールドブラム)とバッタリ。ニックとは正反対の賑やかな米国人で、作家として成功し、再婚した若い妻が妊娠中というモーガンに、彼の家で開かれる翌晩のパーティに誘われる。

パーティで吐露される哲学教授ニックの本音が痛い。現在もマルクス主義左翼を自認する彼はiPodボブ・ディランを聞き、ヌーベルバーグ映画の写真をホテルの壁に張る。同じ時代を共有した人ならニヤリ、彼に対する親近感を持つだろう。それは彼と共に生きてきたメグも同じではないだろうか。

夫婦間に通う愛と嫌悪、理解と拒絶を巧みに描き出した優れたオリジナル脚本は、英国人作家ハニフ・クレイシが書いている。監督は『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッシェルで、クレイシとのコラボは本作で2回目だ。

作中、ジャン=リュック・ゴダール監督の『はなればなれに』の大好きなワーンシーンが出て来て感激してしまった。同じ時代の空気を吸った人たちの作った映画。顔はシワだらけだがスピリットはあの時代に根ざしている、そんな気分に浸れたのも良かった。

上映時間:1時間33分。全米のLandmark Theatre系列の映画館で上映中。
"Le Week-End" 英語公式サイト:http://www.musicboxfilms.com/le-week-end-movies-85.php