"The Great Beauty"(邦題『グレート・ビューティー/追憶のローマ』)


『グレート・ビューティー/追憶のローマ』写真クレジット:The Criterion Collection 
65歳の誕生日を派手に祝うジェップ・ガンバルデッラ(トニ・セルヴィッロ)は、ローマ社交界の名士。40年前に書いた小説が傑作と評されたものの、その後は何も書けないまま、ジャーナリストとして生きてきた。金も地位も獲得した彼は富豪や知名人に顔が広く、コロシアムを臨む豪奢な部屋で優雅な暮らしを満喫していた。
そんな彼の元に、初恋の女性の訃報が届き、その女性の夫からは妻が愛したのあなただけだった聞かされる。衝撃を受けたジェップの追憶と心の放浪が始まる。そんなジェップの目に映るローマはどんな世界だったのか。

高級ストリップ・クラブやボトックス注射に大枚を叩くハイソな世界の空疎を見つめ、知識人の嘘を衝き、アーティストの言葉に耳を傾け、パーティで出会った枢機卿の欺瞞に触れ、年若い人々の死を体験する。まるでフェデリコ・フェリー二監督の『甘い生活』を観ている気分だった。

美しいローマを舞台に小説が書けないジャーナリストが、社交界の乱痴気騒ぎに倦み、初恋の女を追憶するという流れがそっくり。目新しいのは時々スマホが登場すること位で、21世紀版『甘い生活』と言えなくもない。
ただし、ジェップは焦燥感を漂わせた『甘い生活』のマルチェロより年長、倦怠を抱えながらも強い自信を持ち、成熟している。『甘い生活』には若さにも似たいら立ちがあったが、本作には老成した人間の諦観が垣間見える気がした。

監督はイタリアのパオロ・ソレンティーノ、まだ43歳である。オリジナル脚本も彼が共同執筆している。
イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』でカンヌ映画祭審査員賞を受賞。本作では今年のアカデミー賞外国映画賞を受賞した。

若者は登場せず、中老年男女たちによる夜ごとの狂騒をみているとオールドマネーという言葉が浮かぶ。先祖代々ずっと富豪、働いたことなど一度もなく、遊び暮らす連中がうウヨウヨいるらしいイタリア。『甘い生活』から50年余が過ぎても何も変らないイタリアという国の本性を観る思いだった。

共感の少ないジェップの世界。だが、美的に構図された映像と陶酔感のある音楽、味わい深いセルヴィッロの顔に時間を忘れ、彼が最後にたどりついた境地でようやくの納得があった。

ジェップは歴史でも血筋でも金でもない「偉大なる美」を見つけ出すのだ。『甘い生活』へのオマージュでもリメイクでもない、ソレンティーノ監督のイタリア、ローマへの愛が彼自身の映像言語で語られたのである。これもまた「偉大なる美」ではないだろうか。

上映時間:2時間21分。iTune Movie 及びAmazon.comで視聴可能。
"The Great Beauty" 英語公式サイト:http://janusfilms.com/thegreatbeauty/