"Short Term 12" (原題『ショート・ターム 12』)


"Short Term 12" 写真クレジット:Cinedigm
自らの体験から丁寧に物語を作り上げ、登場人物一人一人に対する愛が感じられるインディ系秀作映画だ。
グレース(ブリー・ラーソン)は、18歳以下の子供たちを一時的にケアする保護施設で働く監督指導職員。若いスタッフのリーダーでもある彼女は、施設内での少年少女たちの安全な生活を保るために有能な働きぶりをみせ、施設長を始め子供たちやスタッフからも信頼を受けていた。
彼女には一緒に暮す優しいボーイフレンド、メイソン(ジョン・ギャラガー・Jr)がいて、彼も施設の職員。仲のよい二人だが、グレースは妊娠を知って彼に伝える前に中絶を希望する。そんな頃、問題を抱えた15歳の少女ジェイトン(ケイトリン・デバー)が入所してきて、反抗的な態度でグレースに挑戦してくる。

監督は本作が長編初作品であるマウイ島出身のデスティン・クレットン。彼が働いていた施設の体験を元に4年かけて短編映画を作り、その作品が高い評価を受けて長編映画化へと繫がった。本作は去年のインタラクティブフェスティバルで最優秀作品賞と観客賞の2部門を受賞し、全米の批評家からの絶賛と共に13年のインディ作品としてはダントツの人気を得た作品だ。

題名の「Short Term」は親と暮らせない子供たちを一年間だけ預かる施設のこと。登場人物たちの背景は詳しくは語られず、さまざまな問題を抱えた子供たちの現在の姿が瑞々しいタッチで映し出される。

小さな人形の好きな大人しいルイス、18歳になるので退所せねばならないアフリカ系のマーカス、他の子たちから距離を置くジェイトンなど数人子供たちに焦点が当てられ、平行してグレースの恋人との関係が描かれて行く。
なぜグレースは中絶を選択したのか? この唐突さと激しさの中に彼女の秘密が潜んでおり、その見えなかった部分がジェイトンとの出会いで少しづつ浮上してくる。

ジェイトンが自分の書いた童話をグレースに聞かせる。「一人ぼっちタコがサメと出会い、サメと友達になるために足を一本づつ食べさせて行く」という物語に、グレースは「タコはジェイトン、サメは父親」であると直感する。そして、少しづつ誰にも語ったことのない自分の過去をジェイトンに語り始めるのだ。

年齢も立場も違う二人が、頑だった心を開いていく様子を丁寧に描いて説得力があり、本作の核をなしている。同じ痛みを体験した者同士でなければ分かり合えない苦しみ、と書いてしまうとミもフタもないのだが、解釈ではなく感情の共有と理解を得て初めて、人は過去から一歩踏みだし得るのだという作り手のメッセージが伝わってくる。

問題のある子供たちを一時的に預かるだけの施設ではあるが、その場の持ち得る可能性と豊かさをぎっしりと描き込んだ作品で、全編から若い人の持つしなやかさな優しさ、逆境を跳ね返す強靭さが伝わってくる。ティーンを題材したインディ系作品というと、とかく悲劇的な側面が強調されがちだが、本作には誰にも否定出来ない希望があふれていた。見終わると心地よい涙で顔がグシャグシャだった。

上映時間:1時間36分。iTune Movieで視聴可能。
"Short Term 12" 英語公式サイト:http://shortterm12.com/