“The Unknown Known”


写真クレジット:Radius
ジョージ・W・ブッシュ政権の国防長官としてイラク戦争を指揮したドナルド・ラムズフェルドへのインタビューをまとめた映画作品。海軍飛行士から下院議員となり、その後ニクソン/フォード政権に仕えた彼の略歴を交えながら、イラク戦争大義であった大量破壊兵器の虚偽や、アブグレイブ刑務所での捕虜虐待問題などへの問いに、ラムズフェルドが答える。
しかし、ブッシュ政権下だけでも2万枚のメモを出したという彼は、『ラムズフェルドのルール』というビジネスマン向けの教訓本も出しているほどの格言魔。独特の多弁と格言で聞き手を煙に巻き、本心を明かさない。悔いや反省もなく自己を正当化し、最後にニコリとするラムズフェルドという男の素顔に迫る異色のドキュメンタリー映画だ。

監督であり聞き手は『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』でアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を獲得したエロール・モリス、米国のドキュメンタリー映画作家の第一人者だ。08年の『スタンダード・オペレーティング・プロシージャー』(http://d.hatena.ne.jp/doiyumifilm/20080619) でモリスは、アブグレイブ刑務所での虐待問題の背景を徹底的に洗い出している。

本作でラムズフェルドにその責任の所在を聞き出そうしたのは当然だろう。ところが、この問いに対しても軍の最高責任者だったラムズフェルドはのらりくらり。同じ元国防長官でもベトナム戦争への自責や悔恨の念を表したマクナマラとは対照的だ。

質問に対して絶対にYes No で答えず、難解な表現を使って持論を展開固持。題名の「未知と既知」は、イラク大量破壊兵器の有無を聞かれた悪名高い記者会見の発言から来ている。

彼は自身の結婚について「良い決断だった。そうなることは計画の一部ではなかったが」と答える。真珠湾攻撃を「米軍の想像力の欠如」と捉え、常に脅威を予測し、計画して生きて来た男らしい「評価」の言葉。計画と決断にこそ価値があり、それを遂行するための嘘に良心の呵責など持つ必要すらなかったのだろう。

そんな彼が「自分はそんなことは言ったことがない」答えた直後、彼がその発言をした会見の映像を重ね、彼の嘘を暴いていく演出が冴える。とりわけ、平然と嘘を言った後の長い沈黙を捉えた映像は、この男の底なしの掴みどころの無さを捉えて秀逸だ。

鉄面皮ある時はコミカルな彼の表情から本心を読み取ること難しい。ガードが堅いというよりは、自分の造り出した「敵の脅威」を信じ続ける確信犯に見えた。彼のルールの一つに「問題が解決出来ないときは、問題を拡大させる」というものがあり、9/11後のアフガニスタン攻撃はこのルールに従ったのではないか、と思えて仕方がなかった。

上映時間:1時間43分。iTune 及びAmazonで視聴可能。
“The Unknown Known”英語公式サイト:http://radiustwc.com/releases/the-unknown-known/