"Palo Alto"


"Palo Alto" 写真クレジット:Tribeca Film

俳優ジェームズ・フランコの書いた短編小説集を、ジア・コッポラが脚色・監督したデビュー作。タイトルはサンフランシスコを南下した街の名前のことで、ハイテク企業が密集し、スタンフォード大もあり、全米で教育程度が一番高いリッチな住宅地で知られている。
プールのある家に育ちながら、将来の目的を持てず、酒やドラッグでばか騒ぎをしてトラブルを起すティーンたち。家庭や学校での虐待で傷つくティーンの姿はアメリカ映画にしばしば登場するが、衝撃的な表面をなぞるだけの作品も多く、秀作映画は少ない。本作にも似たようなティーンが登場するが、あの世代特有の感性や失望、希薄な空気感を描き出そうとした意欲的な作品だった。

サッカー選手だが内気なエイプリル(エマ・ロバーツ)は、素敵なコーチのミスターB(ジェームズ・フランコ)に憧れているので、喜んで彼の息子のベビーシッターをしている。そんな彼女が気になるテディ(ジャック・キルマー)。エイプリルも彼が気に入っているが、互いに気持ちを告白できない。
テディの親友フレッド(ナット・ウルフ)は荒れ気味で、友達のいないエミリー(ゾーイ・レヴィン)を甘い言葉で誘い、性的行為をさせている。

ドラマっぽいドラマを語ることよりも、彼らの内面で何が起きているのかに焦点が置かれ、若い俳優たちの自然な表情の変化を捉えた演出が秀でている。
コッポラ監督は、名匠フランシス・フォード・コッポラの孫娘、そしてソフィア・コッポラの姪、養父は大富豪ゲティ一族出という、才と財に囲まれて育った人。27歳の監督にとって主人公らの感覚は身近なものだったのだろう。写真を勉強し、ファッション関係の映像を撮っていたが、本作では商業的な臭いのない映像を撮り出して才気を感じさせる。

エイプリルは、日がなマリファナを吸う作家の父(バル・キルマー)と、言葉は甘いが実は子どもに無関心な母に対して、期待することを諦めてしまっている。「愛情ある親」を演じる両親に対して、反抗するよりも愛想笑いで応える娘。早めに大人になってしまった彼女だが、反面、コーチの甘言に騙される未熟さも持っている。

ティーン時代とは、波打つ感性に自分自身で翻弄され痛い思いをする時代。しっかり痛い思いをして何かを掴んでいくしかないのだ。とは言え、それは大人も同じ。ただ大人は他人だけでなく自分にも噓をつく。ティーンはその噓を嗅ぎ付けてしまうのだ。

上映時間:1時間38分。全米の劇場で上映中。
"Palo Alto" 英語公式サイト:http://tribecafilm.com/tribecafilm/filmguide/palo-alto