"Omar"(邦題『オマール、最後の選択』)


『オマール、最後の選択』写真クレジット:Adopt Films
分離壁に囲まれたパレスチナで暮らすオマール(アダム・バクリ)はパン屋で働く若者。将来を誓い合った高校生のナディア(リーム・リューバニ)と会うために、危険を犯して分離壁を越えるような情熱的な若者だ。そんな彼はナディアの兄であるタレク(エヤド・ホーラーニ)がリードするパレスチナ自由戦士のメンバーでもあった。
ある晩オマールは、幼馴染みのタレックとアムジャド(サメール・ビシャラット)と3人で、かねてより計画していたイスラエル兵の狙撃を果たす。発砲したのはアムジャドだったが、その後イスラエル軍警察に追われ、オマールだけが捕まる。厳しい拷問の末、彼は狡猾な捜査官ラミ(ワリード・ズエイター)の罠に掛かり、イスラエル側への情報屋として釈放された。

釈放後オマールは仲間から裏切り者のレッテルを張られ、ナディアへの恋心とタレクを居所を掴みたいラミの執拗な要求に苛まれ、苦悩する。次第に彼以外にも情報屋がいることに気付く彼は、より孤立感を深め、心身ともに絶対絶命の窮地に追い込まれていく。

やりきれない物語だが、パレスチナで撮影された映像からは、イスラエル占領下で生きる若者の日常とその緊迫感が映し出され、物語に強い説得力を持たせている。優れた映画作品が持つ静謐で濃密な映像が全編に広がり、息を付かせないものがあった。

イスラエル側が建設する分離壁パレスチナ自治区内に複雑に広がり、場所によっては完全に通行不能地区もあるようだ。仕事や学校にいくにも検問を経て、かなりの遠回りをせねばならないのが現状。オマールがナディア会いたさに壁を越える時も、しばしば狙撃の的になる。先祖代々が暮らしてきたパレスチナの地で、こんな暮らしを強いられることは、血気盛んな若者にとって堪え難いことであることは容易に想像がつく。

イスラエルがなぜにこれほどに分離壁に執心するのか理解不明だが、この壁が自由戦士を産む大きな原因の一つになっていることは明らかだ。若者らしい将来の夢を打ち砕かれ、裏切り者の汚名を背負わされたオマールの最後の選択、衝撃的なエンディングが胸を衝く。

製作/脚本/監督はパレスチナ出身オランダ在住のハニ・アブ・アサド、オランダ。06年の自爆テロを計画する二人の若者を描いた静かな力作『パラダイス・ナウ』でゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞している。本作は本年のアカデミー賞外国語映画賞パレスチナ代表としてノミネートされていた。

ハリウッド映画が世界中で配給される中、パレスチナ側の視点から作られた劇映画を観ることは皆無に等しい。彼彼女らには語るべきことがある。アサド監督に限らずこれからも次々とパレスチナ映画が作られ、世界中で公開されることを望まずにはいられない。

上映時間:97分。 iTune Movie 及びAmazon Instant Videoで視聴可能。日本では来年劇場公開予定。
"Omar"英語公式サイト:http://www.adoptfilms.com/omar