"Maleficent"(邦題『マレフィセント』)


"Maleficent" 写真クレジット:Walt Disney Pictures
ディズニーアニメ『眠れる森の美女』で、生まれたばかりの赤ちゃんに、「糸車のハリに刺されて眠りに落ちる」という呪いをかけたのがマレフィセント。魔女だと思っていたが、彼女は妖精だった。なぜマレフィセントが、妖精である証しの翼を失ったのか。その背景を描き、語り尽くされた童話世界に新解釈を加えた劇映画だ。
妖精と人間の世界がバランスを保っていた時代、妖精マレフィセントは森で少年ステファンと出会って親しくなる。しかし、人間は徐々に欲望に支配されるようになり、妖精たちに闘いを挑んできた。
それを撃退したのは、大きな翼を持つ最強の妖精に成長したマレフィセントアンジェリーナ・ジョリー)だ。ステファン(シャールト・コプリー)は、彼女を打ち負かした者に王の座を与えるという王の宣言を聞き、謀略を立てるのだった。

マレフィセントというと、嫉妬深くて邪悪な魔女、童話世界に欠かせない悪役、というイメージがアニメやゲームを通してすっかり定着しているが、本作はマレフィセントの視点から描き、不当な魔女の汚名を返上しようというフェミニスト的な内容だ。

ディズニーと言えば、『眠れる森の美女』に始まり『シンデレラ』『白雪姫』などを通じて、美しい少女は必ず意地の悪い年長の女に妬まれ、その不運から少女を救うのは「白馬に乗った王子様」という幻想を売り物にしてきた企業。21世紀になって罪滅ぼしという訳ではないだろうが、20世を席巻した女のシアワセは男からという「呪い」が解け始めていることは確かだ。古臭い話に新風を吹き込んだリンダ・ウールヴァートンの脚本に喝采を送りたい。

『眠れる森の美女』にはグリム兄弟版以外に、17世紀に書かれたシャルル・ペロー(『ペロー童話集』で有名)版があり、ペロー版では「王子様のキス」の記載はなく、姫は100年間眠るという内容だったようだ。どうやら王子様幻想を語り始めたのはグリム兄弟のようだ。

ジョリーが驚くほどのハマり役で、大きな目を生かしたメリハリの利いた演技で、マレフィセントの怒りと悲しみを体現して本作一番の見どころになっている。また呪いを掛けられたオーロラ姫を、これまたピッタリ適役のエル・ファニングが好演。成長して始めてマレフィセントに会った時に「あなたは私をずっと見守っていてくれたんでしょ」と警戒心ゼロで心を開く様子が初々しくて愛らしかった。

ただ、この手のディズニー映画はCGによるアクション場面に偏りするぎるきらいがあり、マレフィセントの心のドラマが効果的に描き切れず、クライマックスも素っ気ない不満が残った。監督は視覚効果で長い経歴を持つロバート・ストロンバーグで初監督作品である。
上映時間:1時間37分。全米のシネコンで上映中。日本は7月5日より劇場公開。

"Maleficent" 英語公式サイト:http://movies.disney.com/maleficent
マレフィセント』日本語公式サイト:http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/maleficent